伊勢丹新宿店の店頭で導入
よくECサイトでは、「こんな商品もいかがですか」といったレコメンデーションの機能があります。それとはどのような違いがあるのでしょうか。
渡辺:従来型のレコメンド機能は、過去の購買履歴のビッグデータを解析したもので、ロジックは人間が設計したものです。つまり、「他人」が思いつくロジックの範囲内でしかレコメンドできません。SENSYではそれに対し、あくまでユーザー本人の頭の中の「感性」をベースに商品とマッチングに使っています。
コミュニケーションもSENSYの特徴です。IBMの「Watson」を活用し、AIとコミュニケーションしながらアイテムを探す機能も備えていく予定です。例えばスマホでSENSYに「もっと明るい色がいい」と音声で伝えると、それに応じたアイテムを提案してくれる、といったものです。

現在、どのように利用されているのでしょうか。
渡辺:既にいろいろな企業にSENSYのプラットフォームを提供しています。EC分野ではベルーナさんと資本・業務提携を結んでいますが、それ以外でもオットージャパンさんやクルーズさんなどが運営するファッションのECサイトに導入されています。SENSYの導入により、(サイト訪問者が実際に購入する)コンバージョン率が約4割、購入単価が36%アップしたECサイトもあります。
また昨年9月から、伊勢丹新宿店でSENSYを使った店頭での接客の取り組みを進めています。お客様のスマートフォンや店頭にあるタブレットにインストールされたSENSYを使ってお客様の好みを分析し、店にあるアイテムの中からコーディネートなどを提案しているのです。
既にSENSYを使ってくれているお客さんであれば、その情報を活用できますし、店頭でアカウントを作ることもできます。まだ珍しい試みですので、最初はタブレットを触ってくれるお客さんは少なかったのですが、徐々に利用してくるようになっています。
お客の好みを分析・提案するだけでなく、あらかじめ人気のスタイリストのファッションセンスを学習させておくことで、SENSYを通じてコーディネートなどの相談をもできます。
利用者本人のセンスだけでなく、他人のセンスを借りることもできると。自分のファッションセンスに自信がなくても、誰かのセンスを借りてくればいい。
渡辺:有名なスタイリストや、人気のモデルさんやバイヤーなどのセンスを簡単に呼び出せるのもSENSYの特徴です。有名なスタイリストさんやモデルさんにとっても、自分のファッションセンスを学んだAIが「分身」として働いてくれることになります。それによる新しい働き方も生まれてくるのではないでしょうか。
店頭でも接客の質が高まると期待しています。販売員としても、お客さんの好みに合わせた提案ができるようになります。単品だけでなくコーディネートとして提案できれば、単価アップにも直結します。多言語対応することで、外国人客の接客にも使える可能性があります。
「パーソナルAI」の時代 仕入れや商品開発にも生かせる
いずれは店頭の品揃えにも影響を与えそうです。
渡辺:接客だけでなく、集客や仕入れを変革していく第一歩になる可能性もあります。例えばバイヤーが商品を仕入れる時に、お客さんの好みの傾向を前提に仕入れるアイテムや量を決めることができるようになります。
街にある小さなブティックだと、常連のお客さんの顔をイメージしながら仕入れたりしますよね。百貨店のバイヤーでもそれと同じような感覚で、SENSYの分析を仕入れに生かすことが可能になります。そうすれば、売れ残りが少なくなる。その先には、アパレルメーカーが個人の好みを企画や開発に生かしていくということも考えられるでしょう。
アパレル産業のサプライチェーンが変わってくると。
渡辺:既にある通販の会社さんとは、ダイレクトメールやメールマガジンをパーソナライズする準備を進めています。人工知能が分析したデータに応じて、その人が好きそうな商品を目立つように掲載するなど、中身をアレンジする予定です。最近ではオンデマンド印刷の技術も進歩していますので、紙のカタログでも以前に比べてパーソナライズしやすくなってきています。
ファッション以外にも「感性」が決め手になる産業は多くあります。
渡辺:アルゴリズムやデータが異なるだけで、個人の好みのデータを解析して、マッチングするという方法はファッション以外にも応用できると考えています。現在、コスメ関連や音楽、映画、出版関連など30社ぐらいの企業と話し合いを進めており、近くそのうちの数社と実証実験を始める予定です。
AIといえば、高性能の全知全能な存在というイメージもあります。それだけでなく、個人に寄り添い、その人のことを理解してくれるアシスタントとしてのAIにも大きな可能性があるのではないでしょうか。
SENSYもそうですが、誰もが1人1台の「パーソナルAI」を持ち、好きな時にクラウド上から呼び出していろいろな企業のサービスと連携する。そんな時代が訪れると考えています。
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