囲碁やチェス、自動運転から経営判断まであらゆる分野でAI(人工知能)の開発が進んでいる。多くの仕事がAIに代替され、多くの人間が職を失うという脅威論もさかんだ。そんな中、カラフル・ボード(東京都渋谷区)は個人の好みや感性を理解し、買い物などで手助けしてくれる「ファッション人工知能」を開発し、百貨店やEC(電子商取引)サイトなどとのパートナーシップを拡大している。
 同社の渡辺祐樹CEOに、ファッション分野におけるAIの可能性や、それがアパレル産業をどのように変えるポテンシャルを秘めているのかを聞いた。

(聞き手は 熊野 信一郎)

<b>渡辺 祐樹</b><br/>カラフル・ボード代表取締役CEO 兼 SENSY人工知能研究所代表 兼 公認会計士<br/>2005年慶應義塾大学理工学部卒。システム工学を専攻し、人工知能アルゴリズム研究に従事。同年フォーバル入社。2007年、IBMビジネスコンサルティングサービス入社。戦略コンサルタントとして製造業・サービス業の事業戦略策定、組織再編、業務変革などに従事。2009年に公認会計士試験合格。2011年11月カラフル・ボード株式会社設立、代表取締役就任。2014年11月にパーソナル人工知能プラットフォームSENSY(センシー)を開発
渡辺 祐樹
カラフル・ボード代表取締役CEO 兼 SENSY人工知能研究所代表 兼 公認会計士
2005年慶應義塾大学理工学部卒。システム工学を専攻し、人工知能アルゴリズム研究に従事。同年フォーバル入社。2007年、IBMビジネスコンサルティングサービス入社。戦略コンサルタントとして製造業・サービス業の事業戦略策定、組織再編、業務変革などに従事。2009年に公認会計士試験合格。2011年11月カラフル・ボード株式会社設立、代表取締役就任。2014年11月にパーソナル人工知能プラットフォームSENSY(センシー)を開発

あらゆる産業でAI(人工知能)の活用が進んでいます。「SENSY(センシー)」がファッションを対象にしているのはなぜでしょうか。

渡辺:ファッション業界では、膨大な在庫と廃棄によるロスが長年の課題になっています。インターネットで何でも手に入るような時代になっても、それは変わっていません。例えばオンラインショッピングのサイトで「黒いジャケット」を探すと、数十万件もヒットしますよね。

 情報量や選択肢が飛躍的に増えたことで、消費者にとっては便利になったようにも思えます。それでも実際は、本当に自分が欲しいものとの「出会い」が生まれにくくなっているという側面もあります。AIを使えばそうしたミスマッチを解消できるのではないか、そうすれば、ファッション業界を含めた社会的な課題の解決につながるのではないかと考えたのが、SENSYを開発したきっかけです。

ファッションセンスのような抽象的なものを、一体、どのようにAIに学ばせるのでしょうか。

渡辺:ユーザーは最初に、複数のファッションアイテムの中から、どれが自分の好みかといったアンケートに答えてもらいます。それを繰り返すことで、SENSYがその人の好みを学習します。実際にSENSYを導入したECサイトなどで買い物をすると、その結果も反映され、どんどん精度が高まります。

 SENSYは、画面上のファッションアイテムの画像を、ピクセル単位で認識します。色や柄、かたちなどの情報を組み合わせ、その人の好みを計算するのです。

 さらに今年に入ってから、画像に加えて言語のアルゴリズムを導入しました。画像には表れない、その商品についての説明を認識して、好みの分析に使っています。「コットン」や「ナイロン」といった商品説明にある表記を認識して、個人の好みにひも付けて処理するのです。画像に比べて言語の方が技術的には複雑ですが、世の中にないアルゴリズムを作ることにチャレンジし続けています。ファッション分野ではマッチングに関する特許を2つ取得済みです。

ファッションの場合、好みは変わっていきます。

渡辺:確かに個人の好みも世の中の流行も変化するのがファッションの特徴です。ですからSENSYでは、昔のことは徐々に忘れていって、直近の好みの傾向を重視するようなもアルゴリズムを入れています。

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