メディア志望必見「テレビマンと出版人の末路」
連続ドラマ「○○な人の末路」監督の狩山俊輔に聞く(後編)
「ドラマ離れ」など誰が言ったのか。4月23日から日本テレビで放映されている連続ドラマ「○○な人の末路」が快進撃を続けている。月曜深夜24時59分~という深夜帯にもかかわらず、異例の高視聴率を叩き出しているのだ。
ドラマの原案は、日経ビジネスオンラインで連載された「末路シリーズ」を大幅加筆修正した書籍『宝くじで1億円当たった人の末路』。
2017年3月に発売され、累計15万部を突破した同書だが、ことドラマ化に当たっては「小説ではない同書をドラマ化するのは相当難しいのではないか」との意見も挙がっていた。そんな不安を吹き飛ばし、連続ドラマ界に旋風を起こしているのが、日テレ制作局で数々の人気ドラマを手掛けてきた人気監督、狩山俊輔氏だ。
対談の後編では、ドラマの枠を超えて「テレビと出版の仕事の違い」がテーマに。テレビマンと出版人のアイデアの発想法、やりがい、ストレスの共通点や違いとは。少なくともメディアを志望する就職活動生は、超激務の両業界に飛び込む前に、2人の愚痴(?)をまずは聞いたほうがいいかもしれない。
聞き手は鈴木信行
狩山 俊輔(かりやま・しゅんすけ)
1977年生まれ、大阪府出身。過去の主な作品に、テレビドラマ「セクシーボイスアンドロボ」(2007年)、「1ポンドの福音」(2008年)、「銭ゲバ」「サムライ・ハイスクール」(2009年)、「怪物くん」「Q10」(2010年)、「ダーティ・ママ!」(2012年)など。2011年には「妖怪人間ベム」を演出(写真は的野 弘路、ほかも同じ)
鈴木 信行(すずき・のぶゆき)
1967年生まれ、愛媛県出身。日経ビジネス副編集長。2017年3月に「宝くじで1億円当たった人の末路」を出版。日経エンタテインメントなどを経て現職。大の中日ドラゴンズファンで、名古屋のテレビ・ラジオ局からの「末路本」に関する取材、出演オファーを強く希望している。
鈴木:宮田さんの回を見ていて特にすごいなと思うのはリアリティです。そもそもクリーニング屋さんの仕事内容って、多くの人は詳しく知らないじゃないですか。でも宮田君は非常にリアルにクリーニング工程をこなしていきます。
狩山:いいロケ地が見つかったのも良かったと思います。クリーニング屋さんは難しいロケ物件で、営業を止めてもらうか休日に撮影をしなきゃいけないので、いい場所が見つかるか心配だったんです。結果としてすごくたたずまいのいいクリーニング屋さんが見つかった。お借りした店のご主人と奥様がとてもいい方で、朝の6時から夜の10時ぐらいまで店の外で立ってずっと宮田君のロケに付き合ってくれるんです。機械の使い方などで宮田君やスタッフが何か分からないと実際にやってみせてくれる。
鈴木:それで宮田さん、あんなにクリーニング装置をリアルに操れるわけですね。ご本人も「クリーニング店のリアル感を出したい」ってインタビューでおっしゃっていましたし、「やるからには全力を尽くすタイプ」なんでしょうね。辛いものも何が何でも全部食べようとするし(笑)。
狩山:あのクリーニング屋さんとの出会いがあったからこそ、クリーニング編は成立したと思っています。
鈴木:さて、そんな4つの末路がどうなるのか、ドラマはいよいよ佳境に差し掛かるわけですが、ここから先はドラマの枠を超えて、いろいろお話をしたいです。僕ら出版人の中には、同じメディアなのに華やかなテレビ業界に憧れている人が結構いるわけですが、仕事をしていく上では共通点もたくさんあると思うんです。
狩山:そうでしょうね。
鈴木:例えば、アイデアとか普段どうやって考えていますか。僕らみたいな活字の仕事と、映像の仕事ではアイデアの発想法も違うのでしょうか。自分の場合は基本、寝ている時にアイデアが出ることが多いんですが。
狩山:ああ、あります、あります。
鈴木:あります?
狩山:寝る前とかですね。
ともに生涯ぐっすり眠るのは難しい職業!?
鈴木:何か一つのところで行き詰ってどうしようかなと思っていた時、眠りに落ちる前とか朝起きるぎりぎりの時にぱっと思い付く。
狩山:僕もあります。
鈴木:よかった。何かうれしいです。普段、職場でこんな話をしても絶対に周囲からは理解してもらえないんで、仲間が見つかった気分です。でも我々のやり方が仮に正しいとすると、テレビマンと出版人は「生涯ぐっすり眠ることは許されない職業」ってことになってしまいますね(笑)。
狩山:僕の場合、移動中も思い浮かぶことがありますよ。ロケに行く時はロケバスに乗って移動するんですけど、車に揺られながらふっと思う時がある。
鈴木:普通に歩いている時もあります。
狩山:家に帰って、お風呂に入った時にはっと思うこともあるし。
鈴木:一緒だ。逆に言えばテレビも出版もオンオフの切り替えはなかなか難しい仕事と言えるんでしょうけど、ストレス解消とかどうしてます? お互い締め切りというものに追われる生活だと思うんですけど。
狩山:締め切りはやっぱりきついですね。ドラマによってはオンエアの前日まで撮影している時もありますからね。
鈴木:映像の世界はそこまですごいですか。出版は印刷所との兼ね合いもあって、そこまでは締め切りを引き付けることはなかなかありません。もう少し早く妥協する(笑)。そう考えると、プレッシャーという点ではテレビの世界の方がきついようです。
狩山:ただ、僕にとってどちらかと言えばストレスなのは、締め切りよりもむしろテレビの放送というものの尺がきっちり決まっていることですね。1分1秒もずれが許されない。どんな台本でも、撮った映像とオンエアの尺とはズレが出る。活字で言えば、文字数の制限でここまで言いたいのに言えないというイメージです。だからどこを削ってどう見せるかすごく悩みますね。本当に10秒削るのに何時間も悩んだりする時はある。
短くするのがテレビ、長くするのが出版
鈴木:活字の世界では逆に、たくさん取材しても中身がしょぼくて、ページを埋めるのに全然足りない、という苦しみはあります(笑)。
狩山:映像は短くなるというのが一番怖い。放送事故になってしますので最初から長めにつくっていくんです。
鈴木:短く縮めていくというのは宿命なんですね、映像の世界の。映画とかもそうなんですか。
狩山:映画の場合は、尺の制限はそんなにはないはずですが、2時間を超えると映画館での回転数が1回減ってしまうので、ビジネス的な視点で2時間をなるべく切るようにつなぐ映画が多いはずですよ。
鈴木:お互いストレスの中身は微妙に違いますが、狩山さんのストレス解消法は?
狩山:結局ないですね。もうやるしかないなという(笑)。
鈴木:僕も結局ない。やっぱりあれですか、そういう意味では“飲みにケーション”とかちゃんとした方がいいんですかね。ストレス解消もそうですけど、チームワークの醸成とかのためにも。
狩山:僕はお酒、飲みに行きますよ、スタッフと。早く終わった日はカメラマンとか照明部とか演出部も含めて、深酒する時もあります。
鈴木:でも職場の人間と飲みに行くと、ほぼ間違いなく揉めて、遺恨が生まれたりしませんか(笑)。
狩山:揉める時もありますけどね(笑)。でも基本、みんな「いいドラマをつくりたい」という部分ではベクトルは同じなので、揉めてもそれなりの範囲に収まります。
鈴木:そこですよね。「現場のベクトルや思いが一つ」という部分は、テレビ製作の現場を見ていて羨ましいなと思う部分です。
その点では、出版はかなり個人プレーの世界だと言えるかも知れません。記者や編集者は基本、「個人商店」みたいなもので、チームプレーというよりも、各自がそれぞれアイデアを練り、取材に行き、記事を書く。この辺は大きな違いでしょう。同床異夢で飲みに行っても、揉めるか、つまらないかどっちかですもん(笑)。
狩山:僕は飲みに行く以前から、スタッフやキャストともみんな同じ方向を見ているかどうかという部分には常に気を使っています。
鈴木:ゲキを飛ばすみたいなことも?
狩山:あります、あります。半分ポーズもあって、時には怒鳴ったりすることもあります。「今ここが大事なんだ」という空気を現場に作るのも自分の役目だと思っています。
鈴木:なるほど。やっぱりテレビの世界は大変だ。いやいや、大変楽しい対談でしたが、最後に狩山さんの方から原案に関する疑問などありましたら。例えば、ドラマで取り上げた4つの末路以外に気になったものとかありますか?
狩山監督が選ぶ「ベスト・オブ・末路」
狩山:「ああ、分かる!」と思ったのは、電車の中で「中ほど」まで進まない人の末路。あれ、僕も毎日、同じようなことを思っていたんです(笑)。
鈴木:本当ですか。
狩山:「お、このテーマをちゃんと取り上げてくれる人がいるんだ」と思って、一番好きな部分ですよ。
鈴木:ご自分でも毎日、「中ほどまで進まない人」に苦労させられている、と。
狩山:あんまりラッシュの時間には乗らないんですが、中途半端な時間だからこそ「奥が空いているのにドア付近は大混雑している」という状況に遭遇します。「本当に分かる!」と思いながら読みました(笑)。
鈴木:この本が出て1年経つんですが、残念ながら都内の電車の中は今も「中ほどまで進まない人」であふれています。そうした人たちをかわして奥に進もうにも、わずかでも鞄や体が触れると鬼の形相でにらみつけてくる人もいます。啓蒙が全然足りてないようで、是非ドラマでも扱ってほしかったんですが(笑)
狩山:本当はやりたかったんですけど、電車の撮影って手間が掛かるものなんですよ。それで今回はやめようという判断になったんですけど、パート2があればぜひやりたい末路の1つです。
PART2があれば「ドア横キープマン」はいなくなる!?
鈴木:ぜひお願いします! 「ドア横キープマン」を始めとする「電車で中ほど進まない人」については、僕自身、本当に長年疑問に思ってきたわけですが、これまた周囲には全く理解してもらえませんでした。「分かる」と言ってくださる人がいて、うれしい(笑)。
狩山:すごく分かります。
鈴木:では、連続ドラマ「○○な人の末路」、いよいよ佳境です。皆さん是非とも……。
狩山・鈴木:よろしくお願いします!
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