内藤:またある別のケースでは、ひとり暮らしをしていて亡くなった伯母さんの部屋を整理してほしいと姪御さんから依頼されました。ところが、遺品を整理していく過程で、故人が若いころ外国人の方と結婚されていたことが分かったのです。一生ひとりで生きてきたと思い込んでいた姪御さんは、思いがけない事実が判明してびっくり仰天です。

 離婚して50年以上前に生き別れになったお子さんの写真。外国風のフォトフレームに飾られたその写真は風呂敷の中に大切に包まれていました。事情は分かりませんが近親者にも、結婚して子供がいたことをご存じない人が少なくないようでした。お子さんに会うことができなかった人生は、どれだけ寂しかっただろうと、作業を進めながらついつい考えてしまった現場でした。

いずれも小説かドラマになりそうなお話ですね。

内藤:もちろん、ドラマになるような感動的な話ばかりではなくて、戸惑うケースもあります。遺族も知らない借用書やら、不動産トラブルにともなう裁判所への宣誓書やら、何やら…。専門業者である私も、あまり見たくないようなモノが出てきて驚くこともあります。

 戸惑うという点では、反社会的な勢力かもしれないという、恐い人が作業中に入ってきてしまうようなことも何回かありました。借金の取立人だったのかもしれません。またある時は、「近所に住んでいる者」だとおっしゃる方が入ってきて「これは自分がもらうことになっていたものだ」と声高に主張されるケースも。いずれにせよ、そうした不意の訪問者の方々がどういう立場の人であったとしても、勝手に遺品を持っていかれることだけは絶対に避けなければなりません。即座に、依頼者さんに電話で確認して、何とか早く出て行ってもらうようにしてきました。

「生前整理」は難しいし、無理して行う必要はない

これから高齢者は増える一方、子供側の世代は相対的に人数が少なくなっていきます。このため、内藤さんのようなプロに遺品の整理を依頼するケースは増えていくと思うのですが、生前からモノを片づけたり減らしたりすることは可能でしょうか。

内藤:親御さんの側、お子さんの側、それぞれ生前に片づけておきたいという方はいらっしゃいますが、結論から言うと、生前に片づけるのは難しいのではという気がしています。

 「片づけ」や「整理」の本をたくさん書かれているような先生方は、生前からの整理の重要性を訴える「片づけ至上主義」の方が多いですが、現場で遺品の整理をしてきた私にとってみれば、生前からモノを捨てていくという「生前整理」は難しいことが多く、親の意向をまげてまで行う必要はないのではと考えています。

 むしろ、無理にそれをやると親子で揉めてしまうことが少なくありません。親の側は生活にまったく不便を感じていないのに、子供が「こんなモノ、とっておいても仕方ないでしょう」などと整理を持ちかけると、親子の間に亀裂が入り、子供は親から遠ざけられてしまうだけでしょう。親の世代は「モノは粗末にしない」という厳しいしつけを受けてきた世代だけに、子供側の価値観を親に押しつけ、無理にモノを捨てたりすると、「もう二度と来ないで」となってしまいがちです。

 実際、私が直接聞いたケースでは、実家の片づけを無理に行おうとして、「私の目の黒いうちは、あなたは絶対家に入れない」と言われてしまった方や、親御さんと長期にわたり断絶してしまった方などがいらっしゃいました。

命の終わりを覚悟した人は、身の回りを片づける

生前整理がうまくいくケースはないのですか?

内藤:ありますが、少数ですし、例外的です。それは今申し上げたような親と子で生前整理に取り組むというケースではなく、自分で自分のモノを生前整理するというケースがほとんどです。

 具体的に言えば、依頼者さんが難しい病気をわずらっていらして、自分の余命がどれくらいかを知っていたり、死期が間近に迫っていることを自覚していたりするケースが多いです。すでに“覚悟”をされて、残された近親者に迷惑がかからないように自主的に整理されるわけです。

 さきほど、私の思い出深いケースとして挙げた、お亡くなりになる直前にハウスクリーニングを依頼していたおばあさんも、このタイプかもしれません。

 例えば、こんなこともありました。30代半ばの単身の若い男性の方から、住んでいる2DKのアパートと近くに借りているレンタル倉庫を片づけて欲しいという連絡をいただきました。「まだ“遺品”ではないですけれども、自分は末期がんで余命1カ月と言われており、入退院を繰り返しています」と、ご自身から説明を受けました。「ベッドだけを残してあとの大半は整理・処分してほしい」というご要望でした。

 その依頼者の方のアパートにうかがいお打ち合わせをして、近くのレンタル倉庫にも行き、整理・処分をしました。そして、まだ若いその依頼者と一緒にアパートに戻ってくる時、その方が空を見上げてとても晴れ晴れとした、すがすがしい表情をされていたのを、私はよく覚えています。それから2週間後にもその方のアパートに行く予定を入れていたのですが、連絡がないので大家さんに聞くと、何日か前にお亡くなりになったということでした。

やりきれないお話ですね。

内藤:このようにご自分の死期を悟り、“覚悟”をされた方から、「生前整理をするのを手伝ってほしい」とご連絡をいただいたというケースは、ほかにも何件もございました。ただし、もちろん、全体の中では少数派、例外的なケースです。

遺品整理時の確認作業の様子。(本文中の事例とは無関係です)