人権派弁護士としてNGOから企業へ転身

グローバル企業に対するNGO(非政府組織)など社外からの監視の目は、厳しくなっています。どのように対応していますか。

パルト:ステークホルダーとの対話は、我々にとって極めて戦略的に重要なことです。そもそも、今の会社の役割とは社会に貢献することですから。そのため、様々なステークホルダーの代表であるNGOなどとは、考えられる懸念や課題などを理解するために対話を続けています。実際、2013年に発表したコミットメントを策定する過程では、世界中の200以上の組織と会って社会的な課題について議論を深めました。今でも毎年、150以上の組織と会い、意見交換をしています。各国、各プロジェクトで解決しなければならない課題がある時には、NGOと協力して解決に当たるのも、経営の透明性を高めるうえで重要だと考えています。

パルトさん自身、人権派の弁護士として、NGOでの活動を通じて企業を監視する立場にいたわけですが、なぜ、企業の中に入ることにしたのですか。

パルト: そもそも私は、仕事においても個人としても、常に社会に貢献したいという思いを持っています。何かしら、将来の変化に良い影響を及ぼしたい。個人としての力は微力ですが、組織に属せばより大きな可能性が開けると考えました。

 当初は、NGOに加わることが力を発揮するのには最良の道であると思いましたが、ロレアルからこのような機会をもらって、今度は企業に入ることを決めました。自社だけではなく、取引先など他の企業に対しても、ロレアルが模範になることができれば、より大きな影響を及ぼすことができると考えています。そのため、私にとってはNGOから企業に移ることは、違和感のない自然な流れでした。

企業を変えるより消費者を変える方が難しい

ロレアルに入ってみて、当初描いていた理想とのギャップはありませんか。

パルト:会社を変えるのは難しいと思っていましたが、CEOのアゴンがCSRに熱心に取り組んでいるので、それは杞憂でした。むしろ、消費者の意識を変えていくことの方が、想像以上に大変です。

 近代社会における経済は、無限の成長、無限の資源、無限の廃棄を前提に回ってきました。この前提を変えるのは容易ではありません。実際、その前提を変えることに対して、消費者はまだ、あまり関心を払っていません。

 しかし、消費者が関心を払わないから企業は何もしなくていいのかというと、決してそうではありません。消費者の関心が低いからこそ、企業はもっとリーダーシップを発揮して、サステナブルな社会に向けた変革を起こしていかなければなりません。

 どんな企業であれ、長期的に発展していくには、サステナビリティーの視点はもはや不可欠です。例えば、ロレアル製品は50%以上の材料を自然から調達しています。つまり、天然資源を効率的に使うようにマネジメントしていかなければ、材料の調達はいつか、行き詰まってしまうでしょう。サステナビリティーは、日々のビジネスに直結した課題なのです。

 ここで重要なのは、「サステナビリティー」と聞くと、多くの消費者は特別な環境技術か何かのようなことで、自分とは直接関わりの薄いものだというイメージを抱いてしまうことです。しかし、消費者を巻き込んでサステナビリティーを強化していくには、「サステナビリティー」という言葉自体が、消費者を魅了するイメージを抱いてもらえるようになる必要があります。「サステナビリティー」という概念そのものが美しいものであり、消費者の憧れの対象と認識されなければなりません。

 企業は、もっとサステナビリティーを魅力的なものとして、消費者にアピールする工夫をしていくべきです。ロレアル自身、化粧品のリーダーとして、そこをもっと強化していこうと考えています。