米国の規制強化もそうですが、パナマ文書をきっかけに、タックスヘイブンに対する国際的なルール強化の機運が高まっています。

パラン:米国だけでなく、英国ではデビッド・キャメロン首相が悪質な課税逃れへの対応を強化する方針を示している。さらに、EU(欧州連合)全体でも税逃れに対する圧力をかけようという姿勢は強まっていると私も実感している。好ましい流れだと思う。

国際機関の規制には限界がある

パラン:国際機関レベルでの連携もさらに進むだろう。OECD(経済協力開発機構)が税逃れ対策のために頻繁に会合を開き、新しい課税逃れの規制強化に乗り出している。

タックスヘイブン自体の減少につながりそうですか。

 ここが難しいところだが、個人的には国際機関のこのような動きには限界があると感じている。国を越えた連携というのは各国の政治に左右される。規制を統一することは相当の困難を伴う。政治的に連携しているEUでもない限り、法的強制力を持たせることは難しい。例えば、OECDの規制強化方針を拒否し続けているパナマを完全に従えさせるのは難しいだろう。実際にそれを実行しようとすれば途方もない時間がかかる。

 国際機関を通じた取り組みを続けることは重要だが、やはり最後は各国独自の規制を強化していくしかないと思う。

 例えば、タックスヘイブンと世界的に評されている国に対して、節税あるいは資産隠し目的の会社を設立する場合に、必ず自国政府や当局に届け出る。国が、誰がどこに会社を設立しているかをリスト化し、監視するようにして、「これらの国に会社を設立することは、自国の政府から疑いを持たれるリスクがある」と認識させることだ。タックスヘイブンの最大の特徴である「秘匿性」に網をかける必要がある。

 世界経済の中心である米国、EU、中国、日本がこのルールの徹底に同意すれば、資産隠しの行為は減るだろう。

 ただ、これまでタックスヘイブン対策に消極的だったパナマは、今回の事件によって対策を迫られるだろう。世界各国からの圧力がかかってくるだろうから、パナマ政府は(既存の方針を変えるかどうか)大きな決断は迫られる。

企業の過度な節税対策への監視の目が厳しくなっています。

パラン:2月に起きた、米製薬会社ファイザーによるアイルランドのアラガン買収計画の撤回はまさに米国の規制強化の成果だろう。ファイザーは、節税目的でアラガンを買収したことを自ら証明してしまった。

 今回のパナマ文書は、企業と個人という点で違う事件ではあるが、背景にある租税逃れに対する当局の規制、そしてメディアや世論から厳しい視線を受けるという点では共通する。

 節税自体は違法ではなかったとしても、行き過ぎた行為に関しては、個人だけでなく、法人に対しても、厳しい目が向けられるのは間違いないだろう。

 しかし、それでも抜け穴はあるし、課税を少しでも回避したいというニーズは存在する。タックスヘイブンは、そうしたニッチなニーズの受け皿として存在してきた。

 だから、パナマが政府の方針を変えてタックスヘイブンの規制強化に乗り出したとしても、他の国が次のパナマの座を狙う可能性はある。小国にとっては、それがグローバルで生き抜く道でもあるからだ。

 世界のタックスヘイブンの過半数は、きわめて小さな法域であり、大半が、人的資源を育成する大学などの教育機関もなければ、研究センターもない。国を養っていけるほどの地域資源もない。

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