再びシーパワーを目指す中国

茂木:中国の話をしましょう。習近平政権は明時代の中国のようにランドパワーからシーパワーへ転換することを目指しているのだと思います。永楽帝は、鄭和に南海遠征を命じました 。艦隊を東南アジアからインド洋、東アフリカへと回らせ、周辺国に朝貢するよううながしたのです 。

しかし、その試みは長続きしませんでした。

茂木:北方騎馬民族のモンゴル人が中国の北辺を再び襲ったからです 。

茂木先生は著書の中で、中国は長いこと南と北に敵を背負ってきたことを説明されています。「北虜南倭」ですね。北には騎馬民族、南には倭寇。米国の力が衰え、ようやく海洋進出の機会を得た中国は、北を襲う可能性があるロシアと敵対したくはないでしょうね。

茂木:中国の海洋進出が可能になったのは、ソ連崩壊で北の脅威から解放されたからです。

 冷戦期に、ソ連に対抗するため毛沢東とニクソンが米中関係を正常化して以来、両国は良好な関係にありました。だからこそ、中国は経済を急速に発展させることができた。しかし、海洋進出やAIIBの設立で流れが変わりました。AIIBの設立は米国にとって、飼い犬に手を噛まれたようなものでしょう。米国は今後、警戒感を強めるでしょう。

 これまでは米国防総省と防衛産業が中国を敵視しても、米国務省と金融界は中国に好意的でした。しかし今は国務省も警戒感を強めています。習近平国家主席は「やり過ぎた」と言えるでしょう。

米国の戦略家、エドワード・ルトワック氏の近著『中国4.0』によると、習近平政権はやり過ぎに気付き、政策を改めつつあるようです。

茂木:習近平政権が政策を改めるかどうかは国内政治の動向によるでしょう。カギを握るのは人民解放軍です。独裁政権は民衆の声を気にしませんが、軍の忠誠は政権の維持に不可欠です。そして軍の中には「米国なんか目じゃない」と主張する強硬派がいるのです。

世界史と地政学の視点から分析すると、米中関係の将来像が読めるものでしょうか。

茂木:地政学では北米大陸を巨大な島と考えます。カナダやメキシコが、米国を軍事的に脅かすことは考えられません。一方、中国は常に、北方にロシアの脅威を抱えています。

オバマ政権の動きを見ていると、ウクライナ問題でもシリア問題でもロシアに対して寛容であるように見えます。これは、中国の北辺にプレッシャーをかけ得る存在であるロシアとの関係を保ちたい意図があるからでしょうか。

茂木:オバマ大統領がそこまで考えているかどうかは分かりません。しかし、側近の中にはそのように考えている人もいるでしょう。

だとするとオバマ政権は、安倍政権がプーチン政権との関係を深めるのも歓迎でしょうか。

茂木:日ロ首脳会談を開くことにオバマ大統領は不快感を示していますね。しかし、リアリズムの視点に立てば、日ロの関係強化を認めることもありうるでしょう。

 ロシアがISへの空爆を始めて以降、ロシアに対するオバマ政権の姿勢はソフトになっています。対ISでロシアの力を利用しようと考えているのでしょう。同じように、中国を牽制するためにもロシアを利用しようと考えるかもしれませんね。

 だとすると、現在の環境は、日本にとって北方領土交渉を進めるチャンスです。米国からの妨害を受けずに対ロ交渉を進められますから。米国の衰退は、日本が自立した外交を展開する千載一遇のチャンスなのです。

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