一帯一路政策は「モンゴル帝国」の再来

なんともきな臭い話ですね。次にお伺いしたいのは中国が進める一帯一路政策です。これは習近平国家主席がモンゴル帝国(元朝)の再現を狙っているのでしょうか。極東から欧州に至る巨大な勢力圏を築こうとしている。

茂木:その通りです。目的の一つは、長い国境線を接し、潜在的には緊張関係にあるロシアとの間でユーラシア同盟を築きたいということ。同時に、カザフスタンなど旧ソ連圏の中央アジア諸国に投資して影響力を拡大すること。

ロシアはかつて2世紀にわたってモンゴル帝国に支配されました。一帯一路政策が経済的に元を再現するものであれば、ロシアはこれに恐怖を抱いているのではないでしょうか。

茂木:そうですね。ロシアはその2世紀を「タタールのくびき」として暗黒時代と位置づけています 。「タタールがまた来た」という思いかもしれません。

 ロシアは極東でも中国の人口圧力を警戒しています。バイカル湖以東のロシア人口が620万人で千葉県の人口程度しかいないのに対し、国境の南の旧満州には1億人が住んでいます。

米国は移民を先兵にテキサスとハワイを手に入れた

移民を受け入れることは「人道的に正しいこと」というイメージがあります。しかし、現実には移民は“武器”と言えませんか。茂木先生は著書の中で「テキサス共和国」について触れています。米国は、当時はメキシコ領だったテキサスへの移民を拡大。これは合法的なものでした。人口でメキシコ人を上回ると独立を宣言し、米国への加盟を申請し、28番目の州になりました 。

 ハワイでも同様のことをしています。大量の移民を送り込んだ後に「ハワイ革命」を起こし、米国の50番目の州となった 。

茂木:おっしゃる通りです。ロシア系住民が多いクリミアをウクライナから分離してロシアに併合したプーチン大統領も、当然、これらの歴史的事実を意識していたでしょう。

 加えて、一帯一路政策は純粋な経済政策ではないことも、ロシアの恐怖心を高めていると思います。例えば中国企業が、「一帯」の西端に位置するギリシャ最大の港、ピレウス港を買収しました 。ロシアから見ると、ロシア艦隊が黒海から地中海に出る際のチョークポイントを、中国に塞がれる可能性が出てきました。

 同様に中国は、海路である「一路」の通り道であるオーストラリアでも港を抑えています。米海兵隊がローテーションで駐留するダーウィンの港を、中国企業が99年にわたって借りる契約を結びました 。米豪の同盟関係にくさびを打ち込むことが狙いでしょう。オーストラリア経済は、資源を海外に販売することで成り立っています。その最大の貿易相手は中国です。

オーストラリアが、米海兵隊の拠点近くの港を中国に貸し与える判断までしているのでは、日本の潜水艦が選ばれないのも道理ですね(関連記事「豪潜水艦の商談を機に日本の防衛産業を考える」)。

茂木:オーストラリアには中国からの移民が年々増えています。中国傾斜を強めるターンブル政権は彼らの意向にも配慮する必要があったのでしょう。

ここでも移民が重要な役割を果たしているのですね。

 中央アジア諸国は一帯一路政策をどう思っているのでしょう。彼らもモンゴル帝国に支配された記憶を思い出すのでしょうか。

茂木:ロシアほどではないと思います。民族的にも同じ系統ですし。

 例えばカザフスタンの場合、反イスラム過激派ということで中国と利益を共有しています。ナザルバエフ大統領 は旧ソ連時代から政権を維持しており世俗主義をとっています。従ってイスラム過激派とは相容れません。一方、中国はISが新疆のウイグル人独立派に勢力を拡大しようとしているのを警戒しています。「反テロ」で両者の利害は一致します。

ロシア以外に大きな反対勢力がないとすると、一帯一路政策は順調に進むのでしょうか。

茂木:この政策の進み具合を左右するのは、周囲の国の動向よりも、上海株の暴落以来、失速している中国経済のほうだと思います。

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