学校では教わらないリアリズム

今、ビジネスパーソンが世界史と地政学を学ぶ意義は何でしょう。

茂木:ビジネスと地政学はかなり遠い関係にあると思います。ビジネスは「理性」の世界ですよね。数字に基づいて合理的判断する。市場があって儲かるところに出ていく。一方、地政学は不合理と感情の世界です。価格が多少高くても自国製品を使いたいとか、生産性が低くても国内での雇用を優先したいというのは感情です。「ナショナリズム」の世界と言い換えてもよいでしょう。しかしこれがリアルな現実なのです。

 ビジネスパーソンにはぜひリアリズムの考え方を身につけていただきたいと思います。日本の学校では、小学校でも中学校でも、アイデアリズムに基づいた教育がなされます。「話し合えば、ジャイアンとも仲良くやっていける」と習うわけです。性善説に立っているわけですね。こうしたしつけの影響は大きい。結果として社会や世界に出た時に、騙されたり、いいように使われてしまったりするわけです。

世界にはずるいことをする国や、ダブルスタンダードで外国に接する国があることを世界史と地政学から学ぶ必要があるわけですね。英国は第1次世界大戦の時、トルコ人が牛耳るオスマン帝国を内部から崩壊させるべくアラブ人をけしかける一方で、同帝国の支配地域をアラブ人の意向を無視して列強で分割する協定をフランスやロシアと結びました。米国はイスラエルの核開発には目をつぶる一方で、イランや北朝鮮には厳しい態度を崩しません。

 私は世界史と地政学を学ぶべき理由として、日本人は「大きな地図」を見る訓練ができていないことがあるのではと考えています。「小さな地図」はちゃんと見ています。しかし、大きな地図にはなかなか注意がいきません。

 日露戦争が典型例です。朝鮮半島の権益を巡って日本と帝政ロシアが対立しました。日本人の頭の中には、日本とロシア、朝鮮半島、中国の一部からなる地図が思い浮かぶ。これが小さい地図です。

 一方、日露戦争は、南下政策を進めるロシアとこれを阻止しようとする英国とが演じるグレートゲームの一部をなすものでした。英国は、クリミア戦争ではロシアと戦うオスマン帝国を支援、第2次アフガニスタン戦争ではロシアに支援されたアフガニスタンと対決。日露戦争ではロシアと戦う日本を支援しました。この「大きな地図」については、司馬遼太郎さんが書いた「坂の上の雲」も多くの紙幅を割いてはいません。

 日本人は大きな地図を見られるように訓練する必要があるのではないでしょうか。

茂木:世界観の欠如ですね。日露戦争の時、ロシアとの講和に反対し、ロシアの当時の首都だったサンクトペテルブルグまで攻め込むよう新聞に意見広告を出した東大教授がいました。大きな地図を見ることができなかったのでしょう。

 ただ、大きな地図を見られる人は限られています。世界に影響を及ぼすことのできる大国、例えば米国、英国、ロシアといった国のリーダーだけです。