そうりゅう型潜水艦の商談は、負けても教訓に

防衛装備を海外に移転する具体的な案件として、そうりゅう型潜水艦をオーストラリアに売る案件が注目されています。最近、オーストラリア放送協会が、日本が「候補から外れた」と伝えました。

そうりゅう型潜水艦の7番艦「じんりゅう」の引き渡し式
そうりゅう型潜水艦の7番艦「じんりゅう」の引き渡し式

佐藤:正式発表前の段階でコメントは難しいですが、私はこの案件はオーストラリアが日本を選択すればうれしいですが、実際的には取れなくても仕方ないと考えています。

 残念ですが、日本には国内の技術力に過信があるように思います。防衛装備移転では、相手国の事情を考え、それに合わせた柔軟な対応が必要になります。「ほしいのなら売ってあげる」という態度は好ましくありません。防衛装備の取引では、相手国の事情を考慮することが欠かせません。オーストラリア政府は当初から現地生産を希望していました。現地の国内状況を見ると、造船業の立て直しと雇用の確保が重要な政治的意味を持っていたにもかかわらず、日本政府は当初、完成品の輸出を考えていました。

 この商談で負けてしまうと、防衛装備を海外に売っていこうという勢いを削いでしまう可能性があります。しかし、この商談から学ぶことも多いのではないでしょうか。その教訓を今後の取引に生かしていくことができれば、負けも無駄ではないと思います。さらに、今回の商談に関与し、教訓を体感した防衛省などの担当者の人事的処遇にも気を付ける必要があります。教訓は生かすべき。そのフィードバックが担保される人事により、後に続く人の気力を萎えさせることなく次につなげられると思います。

インドにも、日本の潜水艦を輸出する可能性はあるのでしょうか。

佐藤:インドは独自の外交・安全保障政策を模索する国で、日本の軍備管理・軍縮の基盤である核兵器不拡散条約(NPT)にも加盟していません。このため、日本がインドに対して防衛装備を販売するのは難しいとされていました。その状況は大きくは変わっていません。しかし、インドは原子力供給国グループ(NSG)に加盟したし、日本とは日印原子力協定を結びました。日本を含めた国際社会との関係は深くなってきていますので、以前より可能性が高くなっていると思います。

国産ステルス戦闘機「X-2」が4月22日に初飛行し、注目を集めました 。これを海外移転することは考えられるでしょうか。

佐藤:ステルス戦闘機の市場には既に米国、中国、ロシアがいます。今から日本が入れる可能性は高くはないでしょう。

そうだとすると、このプロジェクトは何のために進めているのでしょう。

佐藤:様々な説があります。その一つは、ステルス技術のキャッチアップが目的というもの。F35の後継機の開発において交渉力を増すためという見方もあります。F35の後継機も複数の国が参加する共同開発となるでしょう。「日本はステルス機を独自に開発する力がある」と主張することができれば、この共同開発プロジェクトの交渉を有利に進められるかもしれません。

次ページ 防衛装備移転三原則だけで産業育成はできない