目的に応じたKPIを定めないと失敗する
自前主義ですべてをやるのではなく、社外のリソースを活用してイノベーションを促進するという考え方ですね。
仮屋薗:我々は、オープンイノベーションは今の時代の要請だと思っています。協会には大企業・産学連携部会というのがあるのですが、これらの部会は非常に活発に活動しています。
ベンチャーと大企業の連携に関しては、CVCが活発ですね。私が会長に就任した当初はCVCの加盟は5社しかありませんでしたが、今では30社に達しており、どんどん設立されています。
大企業には、どうやってスタートアップと付き合ったらいいのかという悩みも多そうです。
仮屋薗:企業ごとに、CVCの目的やストラクチャーは様々ですよね。ベンチャーを買収して、それを新規事業の軸に据えようというものから、どのような技術があるのかをとりあえず探そうというサーチレベルまで、いろいろです。
サーチレベルですと、複数のVCファンドに出資をして、そのVCが持っている案件の情報を集めることで視野を広げようというものがあります。そこから、もうちょっと踏み込むと、VCと共同でCVCを立ち上げるというのもあります。さらに進めば、かなりの金額を投入して新規事業開発の一環として単独で投資したり、もしくはCVCを独自に立ち上げたりするケースもあります。M&A(合併・買収)はそのさらに先にあります。
大企業にとって大切なのは、このグラデーションの中で、自分たちがどのレベルでやろうとしているのかをはっきりさせることです。当然、立ち位置によってKPI(重要業績評価指標)も変わってきます。
例えば、サーチレベルで情報を広く集めるということであれば、KPIは情報の網羅性だったり精度だったりするでしょう。VCファンドに出資をした場合でも、研究開発的な意味合いが強いのならばリターンはあまり意識しなくてもいいかもしれません。一方、新規事業だったり、既存事業に取り込んだりすることが前提なのであれば、投下した資金をしっかりと回収し、利益を生むことが中長期的に必要になります。
このあたりの整合性をしっかりと意識することが、大企業がオープンイノベーションを成功させるうえでの大前提だと思います。
投資3年目の厳しい時期をいかに乗り越えるか
目的に応じたKPIを定めて、立ち位置がぶれないように取り組むことが大切だということですね。
仮屋薗:私は、オープンイノベーションに取り組もうという機運が日本の大企業で高まっているのは、大変すばらしいことだと思っています。これを継続させ、進化させるためには、オープンイノベーションの目的と時間軸をしっかりと定義して、モニタリングしていくことが欠かせません。
残念ながら、失敗とは言いませんが、始めてみたものの、オープンイノベーションの取り組みが停滞してしまったケースもあります。「オープンイノベーション」という大目的を掲げてお金と人を投入したにもかかわらず、単年度決算で収益を管理されて、継続が難しくなってしまったというものです。
投資をしてから早くて3年でレビューが入る企業が多いのですが、3年目というのは、ベンチャーを育成するうえで一番苦しいときに当たる場合が少なくありません。キャッシュフローや収益で見て、一番の底というケースがよくあるんです。
しかし、単年度評価で見ると「この赤字は何だ」という話になったり、日本の会計では減損対象にしなければならなかったりと、厳しい状況に直面します。今後の成長性を評価して時価会計でバリューアップ分をしっかり反映できればよいのですが、それができないとなると、天と地の差があります。
将来の成長性を含めて多面的に判断しなければならないのですが、必ずしも大企業の大きな組織の中では、そういう理屈も通用しない場合もあります。
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