米国と違い日本は大企業がベンチャー投資を主導
VCとしては資金集めが非常に重要です。
仮屋薗:昨年、日本でのファンドレイズ額は2000億円前後でした。その規模はアベノミクスがスタートした時点から大きく伸びています。

額は米国と中国が突出しています。VCの投資額では、米国が8兆円ほどで中国は4兆円程度です。それぞれ日本の40倍、20倍といったところです。GDP(国内総生産)の水準を考えると、日本はまだまだ遅れていると言わざるを得ません。日本の成長を考えると、資金量の拡大が非常に重要だと考えています。
米国と比較すると、こうした資金量の差は、いわゆる機関投資家からの資金の差によるところが大きいですね。年金基金や大学の基金、そして個人の有力な基金などです。ファンドの出資者の内訳で見ると、こうした機関投資家のお金は日本ではわずか1%程度しかありませんが、米国では過半を占めています。
日本では、どこが主な資金の出し手となっているのですか。
仮屋薗:企業、主に大企業です。戦略的なシナジーを念頭に置いた投資ですね。その傾向は、オープンイノベーションを目指して設立が相次いでいるCVCに顕著に現れています。
大企業の資金がベンチャー投資に多く入ってきていることは、米国と比べても大変ユニークですし、いいことだと思っています。ただし、成長資金のマネーの総額で考えると、やはり機関投資家の資金が安定的に入ってくる環境が必要だと思います。
我々VCが何をやっているかというと、突き詰めれば将来の産業育成と雇用創出です。本来的には、我々市民のお金を中長期的に運用している年金基金と相性がいいはずです。自分たちの子供、孫の時代の産業を新たに育成するための資金として、年金基金の一部の資金が使われ、そこからリターンを得るというのは望ましいサイクルだと思います。
今の日本ではまだ、それがうまく回っていませんが、(世界最大の年金基金である)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の動向に注目しています。
もちろん、そうした大切な資金をお預かりするためには、我々VC側も受託者責任をしっかり果たせるよう、業界全体のレベルをもっと高めていかなければならないと考えています。
ちなみに、米国では機関投資家も巻き込んだエコシステムが1980年代にできたことが、IT産業の隆盛の契機になったんですよ。
どういうことですか?
仮屋薗:米国では70年代に、エリサ法という年金基金の運用に関するルールを定めた法律で、年金基金がオルタナティブと呼ばれるVCも含む分野に投資ができるようになりました。その資金が、80年代にコンピューターやソフトウエアという新しい技術に投下されて、ITが新たな産業として立ち上がっていきました。
ここで忘れてはならないのが、VCのベンチャー投資は、ベンチャーを単に応援することが目的ではなく、あくまでもしっかりと運用としてリターンを上げるものでなくてはならないということです。当たり前のようですが、しっかりとリターンを出せなければ、市民の大切な将来のためのお金を預かる年金基金が、資金の出し手になってはくれません。
結果を出して、産業育成もして、有用なリターンを出すことはセットでなくてはなりません。我々も、リスクマネーを預かる確固たる哲学を持たなくてはならないと考えています。
今、日本の年金基金も投資先としてVCを考え始めています。世界の投資家も、日本に注目しています。こうした資金をしっかりと預かれるかどうか、我々はまさにドアの入り口にいると思っています。
これが、2つ目のファンドのエコシステムです。そして3つ目が、オープンイノベーションですね。
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