公衆電話は「安心」につながっている
「171」「189」の3桁ダイヤルの使い方を知っていますか?
携帯電話やスマートフォンの普及によって、街中からどんどん消えていく公衆電話機。先日の誘拐監禁事件では、緊急時における役割が改めて評価された。だが、今や小学生の半数弱が公衆電話機を使った経験がないという。
小学生を対象に公衆電話の体験講座を開いたり、災害用伝言ダイヤル「171」の認知向上活動を行ったりしている日本公衆電話会の岡村力・常務理事兼事務局長に、安全・安心へとつながっている公衆電話が果たす役割を聞いた。
(聞き手は西頭 恒明)
先日の誘拐監禁事件で、被害者の女子中学生が駅の公衆電話を使って親や警察に連絡したことから、緊急時の公衆電話機の役割が改めて評価されました。どんな感想をお持ちになりましたか。
緊急時の公衆電話の使い方や事件・事故から身を守るための注意点などを、小学生向けにまとめた「こども手帳」を作成・配布している、日本公衆電話会の岡村力事務局長
岡村:このような事件がきっかけである点は喜ぶべきことではありませんが、公衆電話機に対する関心が高まったことはありがたく思っています。私ども日本公衆電話会はこれまで、災害時や緊急時における公衆電話の役割について告知活動を行ってきましたが、今回その点を多くの人が着目してくれたのはうれしいことです。
小学生くらいまでのお子さんがいらっしゃる家庭では今回の事件をきっかけにぜひ、学校から自宅までの通学路や普段出かける先の近くなどで、どこに公衆電話があるかを親子で一緒に確認したり、実際に家にかけさせてみたりしてほしいですね。家の電話番号や親の携帯電話の番号を知らないというお子さんが意外と多いようですし。
「使ったことがない」小学生は44%
公衆電話機は全国に90万台ほどあったピーク時から、現在は20万台以下にまで減ったと言われています。しかも、小さい子供が携帯電話やスマートフォンを持つことも珍しくなくなり、公衆電話を一度も使ったことがないという子供も増えているでしょうね。
岡村:少し前になりますが、2010年に小学生を対象に公衆電話に関する調査を実施しました。「公衆電話のかけ方を知っていますか」という問いに対し、小学1~2年生では17%、3~4年生では16%、5~6年生では6%が「いいえ」と回答しています。高学年になるほど、かけ方を知らない子供は減ってきますが、それでも一定の割合でいるようです。
次に、「公衆電話を使ったことがありますか」という問いに対しては、1~2年生で69%、3~4年生で53%、5~6年生で28%が「いいえ」と答えています。全体では44%が公衆電話を使ったことがない。つまり、かけ方は知っていても、実際に使ったことがある小学生は半分強にとどまっているということです。
そこで、日本公衆電話会では地域の防災組織などから依頼を受けて、小学生を対象に「公衆電話教室」を開いたり、緊急時の公衆電話の使い方のほか、事件や事故、災害などからの身の守り方を記した「こども手帳」を作って配ったりしています。この「こども手帳」は既に7600校に87万冊配布しました。
「171」の認知向上にも取り組む
公衆電話機が少なくなったとはいえ、まだ自宅には固定電話がある家が多いと思います。それでも、教室まで開いてかけ方を教えるのですか。
岡村:例えば、先に硬貨を入れてしまう子がいるんです。飲料の自販機と同じ感覚なんでしょうね。でも、そうすると入れた硬貨はすぐに返却口に落ちてしまうので、分からないお子さんは何度も同じことを繰り返してしまうといったことが実際にあるようです。最初に受話器を取って、それから硬貨を入れ、ツーと音がしたら番号を押す、といったことから教える必要があります。
日本公衆電話会がNTT東日本の協力を得て実施した「公衆電話&171体験教室」。公衆電話のかけ方と災害用伝言ダイヤル171による伝言の録音などを小学生に体験させた
東日本大震災の発生直後は携帯電話がなかなかつながらず、私も公衆電話から自宅に安否確認の電話をしました。災害など緊急時に備えて使い方を学んでおくのは意義がありますね。
岡村:教室を開く際には、災害用伝言ダイヤル171の体験もしてもらいます。実は、日本公衆電話会の活動の柱の1つが、この安否確認サービスの認知向上です。公衆電話の使い方とともに171の使い方を説明した、ポケットに入れられる大きさのパンフレットも作って配布しています。
171については東日本大震災をきっかけに、かなり認知度が高まったのではないでしょうか。
岡村:確かに認知度が高まっているという手応えはあります。震災前から体験教室は開いていましたが、震災後は地域の防災組織などからの依頼も増えています。
また、東京都が配布した防災ハンドブックに載るなど、各自治体などにも認知度向上に協力していただいています。ただ、知ってはいても実際に利用したことがない人がまだ多いため、利用方法の告知は重要だと考えています。
171は地震や台風などの大きな災害時に、災害が起きた地域の電話番号に30秒のメッセージを録音できるサービスであることから、普段は利用できません。しかし、毎月1日と15日や、防災週間など、一定の期間で体験利用ができるようになっています。このほか、パソコンからアクセスできる「web171」というサービスも提供されています。
今年3月には、これまで以上に使いやすくなるように改善が加えられました。従来は伝言ダイヤルに登録する電話番号は家の固定電話のみでしたが、携帯電話の番号でも登録できるようになったことです。録音・再生時の通話料も無料になりました。
ところで、「189」という3桁の通報ダイヤルはご存じですか。
児童虐待通報ダイヤルの周知活動も
先日、塩崎恭久・厚生労働大臣が改善を表明したものですね。
岡村:そうです。児童虐待の通報や相談を受け付ける全国共通ダイヤルで、「いちはやく」の語呂からこの番号が付いています。この番号にかけると、管轄の児童相談所につながるのですが、「最初の音声ガイダンスが長すぎる」という声が上がり、見直されることになりました。
189は児童虐待を見かけた人が利用するだけでなく、自分の子供への虐待に悩んでいる親や、虐待を受けている子供からの相談も受け付けています。日本公衆電話会はこの189についても認知向上を図っています。
児童虐待は深刻な社会問題の1つですし、この通報ダイヤルの周知活動も重要ですね。そもそも、日本公衆電話会は何を目的に生まれた組織なのでしょうか。
岡村:1951年に鹿児島で発足した公衆電話受託者の親睦組織「電話会」をきっかけに、全国に受託者の会が広がり、71年に全国会員組織として財団法人化しました。当時は金庫が盗難に遭った時の受託者同士の相互扶助や、気持ちよく公衆電話を使っていただくための清掃活動などを行っていました。
その後、2012年10月に公益財団法人として再出発し、現在では「こども手帳」や、公衆電話や避難場所などを載せた「公衆電話マップ」と「安全マップ」などの発行をはじめ、地域の安全に寄与する幅広い活動を展開しています。
公衆電話受託者というのは、昔で言うと街のたばこ店とか喫茶店などをイメージしますが、そういう方々ですか。
岡村:そういう方々もそうですし、鉄道会社や病院などの事業者も含まれます。最近ではコンビニエンスストアの方もいらっしゃいますね。
公衆電話の台数がピーク時の4分の1から5分の1くらいに減った中、会員数は今どのくらいなのですか。
岡村:受託者の7割くらいが日本公衆電話会に加入していますが、現在の会員数は4万2000ほどです。会員数も公衆電話の台数と同様に減ってはいます。しかし、これからも公益財団法人として、公衆電話機を軸に地域の安全・安心に関わっていきたいと考えています。
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