現地に進出する日系企業からは「大統領が変わるよりも、PEZAの長官が変わる方がリスクは大きい」という声をよく聞きます。失礼な質問になりますが、賄賂が珍しくなかったフィリピンで、なぜ賄賂禁止を徹底できたのでしょう。

デ・リマ:賄賂が必要な国には、良い企業が来てくれるとは思えません。たとえ進出しても、ことあるごとに役所から賄賂を求められていては撤退されるリスクがある。海外から進出した企業が長くフィリピンに居続けてもらうためには、安心して仕事ができる環境が必要です。

 海外から来てくれた企業に対して、なぜ賄賂を要求するのか。理解に苦しみます。フィリピンで雇用を増やしてくれる貴重な存在です。そこに対して賄賂を要求するなど、あってはならないことです。

高卒雇用のためには製造業が必要

IT(情報技術)系企業の進出も多いですが、デ・リマさん自身は積極的に製造業の誘致をしています。そこにこだわる理由は何でしょう。

デ・リマ:やはり雇用を拡大するためです。2014年には人口が1億人を超えました。国民の平均年齢は23歳と周辺国よりも圧倒的に低く、若い労働者がたくさんいます。ですが、国内に仕事がないために失業率が高く、海外で働く人が少なくありません。

編集部注:フィリピン統計局が発表する失業率は2016年1月時点で6.6%。だが、現地調査会社「ソーシャル・ウェザー・ステーション」の調査では、2015年12月時点の失業率は21.4%と高い。フィリピンの人口の1割に相当する1000万人が海外で家事労働者などとして働き、フィリピンに送金している。2015年の外貨送金額(銀行経由ベース)は、前年比4.6%増の257億6700万ドル(約2兆8300億円)で過去最高を更新した。

 いかにして国内に仕事を増やすか。フィリピンに進出するメリットは、公用語として英語が使われている点です。ほかのアジアの国や地域では、英語を話せる人材が乏しく、現地の言葉でマネジメントせざるを得ないところが少なくありません。フィリピンは識字率も94.6%と高く、IT企業が情報システムなどのオフショア開発や、コールセンターを構えるなど、数多く進出してきました。

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