今年5月に大統領選挙を控えるフィリピン。東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも人件費の上昇率が低く、かつ英語圏であることからグローバル戦略を練る日本企業から注目を集めている。現職のアキノ大統領は汚職撲滅を進めており、進出する日系企業からの評判も良かった。だが、大統領選挙の結果によっては政権運営方針が変わるリスクもある。フィリピン貿易産業省の副大臣で、海外からの企業誘致を担当するフィリピン経済区庁の長官を21年に渡って務めるリリア・デ・リマ氏に、話を聞いた。

<b>リリア・デ・リマ 氏</b><br />フィリピン経済区庁長官・フィリピン貿易産業省副大臣<br />1945年生まれ。マニュエルケソン大学卒業、同大名誉法学博士。マニラワールドトレードセンターCOO(最高執行責任者)などを経て、1995年からフィリピン経済区庁(PEZA)長官を務める。大統領が替わってもその都度再指名を受け、歴代4大統領に仕える。海外からフィリピンへの企業誘致に尽力する。<br />(写真:山田 哲也)
リリア・デ・リマ 氏
フィリピン経済区庁長官・フィリピン貿易産業省副大臣
1945年生まれ。マニュエルケソン大学卒業、同大名誉法学博士。マニラワールドトレードセンターCOO(最高執行責任者)などを経て、1995年からフィリピン経済区庁(PEZA)長官を務める。大統領が替わってもその都度再指名を受け、歴代4大統領に仕える。海外からフィリピンへの企業誘致に尽力する。
(写真:山田 哲也)

今年5月、6年に1度のフィリピン大統領選挙があります。同国の大統領任期は1期6年で再選が禁止と規定されており、確実にトップが替わります。既に進出する日本企業、あるいは検討している日本企業にどのような影響があるのでしょうか。

リリア・デ・リマ氏(以下 デ・リマ):次期大統領にどの候補が当選するかは分かりません。政権の運営方針が変わることも考えられます。ただ、私は1995年にフィリピン経済区庁(PEZA)ができて当時のラモス大統領に長官を命じられて以来、ずっとこの職を務めています。エストラダ氏、アロヨ氏、そして現職のアキノ大統領と3回トップが替わりました。

 4人の大統領に仕えていますが、私の立場や仕事は代わっていません。海外から企業を呼び込み、フィリピンの経済を成長させる手助けをする。

 PEZAはフィリピン各地に位置する輸出加工特区に投資する企業に対して、各種優遇措置を付与しています。特区の数は334カ所に増えました。そこで約600万人の雇用を生み出しています。その8割は輸出産業です。

賄賂を求める国に、よい企業が出てくれるとは思えない

歴代4大統領の変遷では、政権与党が替わったこともありますが、デ・リマさんは常に指名を受けています。海外からの企業誘致の実績を実績が、政党の枠を超えて評価されていますね。

デ・リマ:そうかもしれません。私は、自分の信念に基づいてこの仕事をし続けてきました。

どのような信念でしょう。

デ・リマ:海外から多くの企業を誘致し、国民の雇用機会を増やす点でしょうか。そのために、私は自身の管轄である経済特区の中では、後にも先にも賄賂を要求させないという方針を打ち出し、実践してきました。

 賄賂の要求や、それに類似するような行為があって外資系企業から相談があれば、ホットラインで私にすぐに連絡が来るようになっています。賄賂は絶対に許しません。これは20年前から変わらない私の信念です。そして、今後も変わらないでしょう。

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