「人脈」はどこか薄暗いイメージがある

村上さんは、現在もリンクトインの日本代表を務めながら、フィラメント(大阪市)という、大企業とスタートアップをつないでオープンイノベーションを支援する会社にも最高戦略責任者(CSO)として参画しています。これまで、二足のわらじを履き続けて様々なイノベーションに関わってきた村上さんから見ると、オープンイノベーションの課題はどこにあると思いますか。

村上:一言で言えば、多くの大企業はパートナーシップが苦手なんだと思います。完全に自社でコントロールできるリソースとして外部の業者に外注することはやっていますが、対等なパートナーシップを組むというのは苦手なイメージがあります。手段を問わず、自分のビジネスをどんどん広げていこうというマインドが、少し欠けているのかもしれません。

 これは、日本でいう「人脈」という考え方にも通じることだと思います。「人脈」は、英語で言う「ネットワーキング」とは少しコンセプトが違う気がします。

 日本語で「人脈」と言うと、どこか政治的な香りがするというか、お互いに強みも弱みも深いところまで知っていて、腐れ縁みたいな人のつながりを指す印象がありませんか。「人脈を作る」と言うと、オフィシャルよりもアンオフィシャル、飲みに誘って仲良くなるといった、何かやや水面下での動きみたいな感じがするんです。

 一方、「ネットワーキング」は、普通にビジネスのパートナーシップを組んで、いろいろな人たちを巻き込んでいくような、すごく明るいポジティブなイメージで使われていますよね。

日本だと……

村上:なにか薄暗い。お願いするときもロジックで説得するのではなく、「なんとかしてよ」とねじ込むというか。困ったときに「お前の人脈でなんとかしてよ」と(笑)。

 一方、ネットワーキングというと、お互いに必要なスキルや機能を持ち寄って、「俺はこれを持っていないけど、お前は持っているから、いっしょにやろうぜ」という対等な関係を結ぶイメージがありますよね。お互いもうかるから、とりあえず一緒にやろうと。そこには、個人レベルでの好き嫌いはあまり関係なくて、「あいつのことはそこまで好きじゃないけど、ビジネスが広がるから今回は手を組もう」という感覚が強いような気がします。

 もちろん、ビジネスをする上で人格は大切でしょうが、「人脈」というと、人格とビジネスを必要以上にくっつけて捉えてしまっている気がします。人脈という言葉の響きに感じる、ある種のねちっこさは、日本の大企業がスタートアップなどと対等なパートナーシップを結ぶのが苦手な背景の一つでもあるように思います。

 パートナーシップは、ロジカルにお互いのメリットがないと続きません。ロジックが曖昧で、結果的に一方が泣くような関係は継続しません。オープンイノベーションが進まない理由の一つとして、「人脈」を頼りに「なにか一緒にやりましょう」と持ちかける。けれど、次のステップに具体的に落とし込んでいこうとすると、そこで止まってしまう人が多いんですよ。その結果、「断ると悪いし……」といったムードが漂い、ズルズルと何も決まらない。

人格とビジネスがごっちゃになっているから、断ることもできない。

村上:オープンイノベーションを進めるには、八方美人タイプでは務まらないことが多いと思います。大企業の中では社内コミュニケーション力が高くて、上手くやっている人でも、社外とパートナーシップを結ぼうとすると、いつまでたっても決められないというケースはよくあります。

 オープンイノベーションの担当者に必要なスキルは、自社として何をすべきか、何のためにパートナーシップを結ぼうとしているのか、そのことを知り尽くしていることです。社内に埋もれている技術を生かしたいのか、あるいは、既存事業とのシナジーはなくてもいいからもうかることをしたいのか、といったゴールを明確に持って、それを軸に判断していく必要があります。意外と、大企業のオープンイノベーションの担当者は、本人も何をするためにパートナーシップを結ぼうとしているのか、はっきり理解していない場合も多いと思います。