クラスでも職場でも共同体の中では、自然に各人の役割は決まっていきます。例えば、仕事はあまりできないけれど、人を笑わせることでよいムードをつくる「道化師」役の人も職場にはいるかもしれません。自然とそういう役割が決まり、役割のある人には問題は起こりません。

 一方、役割や居場所がないと、精神的に不安定になってしまう懸念があります。役割を見出すことができず、居場所がないのはつらいものです。企業の管理職は、各人を競わせて誰が高いパフォーマンスを発揮するかを見るのではなく、各人の役割や所属感覚に気を配るべきなのです。

 現在、インターネット上でSNSが全盛を極めているのも、アドラー流にいえば「所属」の感覚を、マズロー流に言えば「承認欲求」を必死で求めていることが背景にあります。みな所属や承認を求めてフェイスブックやインスタグラム、ツイッターなどの投稿をしますが、ネット上ではネガティブな反応が返ってくることもありますね。すると、「自分は受け入れられていない」という感覚を持ったり、傷ついたりすることになります。

ほかの人を超える優秀性を発揮する必要はない

向後:ほかの人を超える優秀性を発揮しなければ「所属」の感覚が得られないというわけではないのですけれどもね。なぜなら、アドラーが人類の最大の発明であるという「分業」が社会構造の中には存在するから。つまり、自分に与えられた役割の中で共同体に貢献できればよいのです。

 「所属」の感覚を持っていれば、精神的に安定するということはいえるのですが、所属の感覚がないともう生きていけないのかといえば、必ずしもそうではないと思っています。なぜなら、家族という共同体を除いて、私たちは自分が所属する共同体を選ぶことができるからです。もし、あなたがある共同体に所属しているけれど「所属」の感覚が持てなかったり、そこから排除されようとしたりしているならば、そこを去ればいいだけですし、そこを去ったとしても人生に大きな影響はありません。私たちは、所属できる共同体が、せいぜい2、3個あれば安心して生きていけるのです。それは覚えておいていただきたいと思います。

アドラー心理学が正しいという保証はない、採用は自由

アドラーの心理学では、このほかにも、「目的論」や「ライフスタイル」「仮想論」「共同体感覚」といった、実生活に役立つ実用的なコンセプトがありますね。そうした概念や理論体系を知り、日常生活で実践するには、やはりテレビドラマを見ただけでは不十分で、書籍を読んだりして勉強しないとなかなかわからないと思います。本を読んで独習する上で、なにかアドバイスはありますか?

向後:アドラー心理学は非常に実践的な内容なので、アドラー心理学の本を読んで一つ学んだら、実際に使って確かめてみることをお勧めします。「アドラー心理学は使えそうだ」と思ったら、それをポケットに入れて日々を過ごしてみてください。たくさんある悩みも、徐々に晴れていくのではと思います。

 ただ一方で、アドラー心理学も、人生や世界に対する一つの考え方に過ぎないということも知っておいていただきたいと思います。アドラー心理学を応用することで、読者自身がもうひとつ別の新しい生き方へのヒントをつかむことができるのではないかと私は信じていますが、アドラー心理学が正しいという保証はありません。自分に合わないと思えば捨ててほかの考え方を導入すればいいと思います。アドラー心理学の見方を受け入れるかどうかは、読者自身が決めていいのです。「あなたはあなた自身で自分の生き方を決めることができる」とアドラーが言ったように、アドラー理論を採用するか否かも、あなた自身の自由であり、あなたの決断次第なのです。

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