プロ野球の2016年シーズンが開幕した。セ・パ両リーグの12球団がレギューラーシーズン143試合とその後のクライマックスシリーズ(CS)、そして日本シリーズで日本一の座をかけて戦う。7カ月にわたる長丁場だ。

 各チームが競い合うのは何も「勝敗」だけではない。スポーツビジネスとして見た場合、いかに多くの観客に球場に足を運んでもらい、安定した収益につなげられるかどうかが問われることになる。

 そこでカギになるのがファンの満足度。長年、各チームのファンを対象に満足度調査を実施している、鈴木秀男・慶応義塾大学理工学部教授に各チームのファンサービスやファンの満足度について聞いた。

鈴木教授には2年前にもインタビューに応じてもらいました。(参考:「楽天、日ハム、カープ躍進の理由」)。直近の満足度調査の結果はどうでしたか?

プロ野球12球団の総合満足度スコアランキング
順位 球団 総合満足度
スコア平均値
前年順位
1位 ソフトバンク 72.59 3
2位 日本ハム 66.45 2
3位 ロッテ 63.51 7
4位 ヤクルト 63.05 8
5位 楽天 62.92 6
6位 広島 62.47 1
7位 西武 61.37 10
8位 阪神 60.03 5
9位 巨人 59.42 9
10位 オリックス 58.43 4
11位 横浜DeNA 57.99 11
12位 中日 48.44 12
<b>鈴木 秀男(すずき・ひでお)</b><br/>慶応義塾大学理工学部・理工学研究科教授。専門は統計的手法による品質管理やマーケティング調査、顧客満足度の分析調査など。1989年慶応大学理工学部管理工学科卒業、1996年東京工業大学大学院理工学研究科で博士課程修了。2009年よりプロ野球の各球団のファンを対象とした「プロ野球のサービスの満足度調査」を実施している。
鈴木 秀男(すずき・ひでお)
慶応義塾大学理工学部・理工学研究科教授。専門は統計的手法による品質管理やマーケティング調査、顧客満足度の分析調査など。1989年慶応大学理工学部管理工学科卒業、1996年東京工業大学大学院理工学研究科で博士課程修了。2009年よりプロ野球の各球団のファンを対象とした「プロ野球のサービスの満足度調査」を実施している。

鈴木:今年1月に実施したアンケートの結果では、2009年の調査開始以降、福岡ソフトバンクホークスが初めて1位になりました。これまでもソフトバンクは上位の常連だったのですが、1位には届いていませんでした。

 以前、球団の方にもお話したのですが、ソフトバンクはファンのパイが一気に大きくなりすぎていました。言い換えれば「巨人化」「阪神化」していました。そのため、選手や球団と、ファンとの距離が開いているということが、自由回答などでも傾向として出ていたのですね。同じパ・リーグのライバル、北海道日本ハムファイターズのファンが選手・球団に親近感を感じているのと対象的でした。

今回、2位とは圧倒的な差が付きました。

鈴木:やはり日本一となった2015年のシーズンの成績が大きいのではないでしょうか。ただ勝つだけでなく、柳田や今宮、松田のように華のある生え抜きの選手の活躍が目立ちましたよね。これまでもソフトバンクはファンサービスに力を入れてきたので、それがようやく花開いたかたちです。これで1位にならないのであれば、この満足度調査の信頼性が疑われるレベルのシーズンでした。

 2位に入った北海道日本ハムファイターズは、「大谷効果」も手伝って健闘しましたが、ソフトバンクとは大きな差が付きました。それでも、日ハムは安定して評価が高いことには変わりません。

 ソフトバンクは「選手」「球場」「ファンサービス・地域貢献」などの満足度を構成する項目別でも、すべてで1位になっています。あれだけ強く、選手の魅力も高いと、これまで続けてきた地道なファンサービスへの評価が一気に高まります。

 「期待するシーン」の自由記述では、多くのファンが「柳田のホームラン」を挙げています。球場に足を運びたくなる、わかりやすい魅力があるのも強さですね。選手のコンディションに気を配る工藤公康監督の存在も満足度につながっていることがわかります。かつては「チケットの価格が高い」といった不満も目立っていたのですが、サービスの価値を高めてきたことで、課題を克服できているようです。

 ただ、これがスポーツの難しいところなのですが、ソフトバンクの「一人勝ち」が続くと、リーグ全体が面白くなくなってしまう可能性があります。ファンも勝つことに慣れてしまって、これから同じ結果を出し続けても高い満足度を維持することが難しくなってくるのですね。

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