ARに適したデバイスとは、どんなものになるのでしょう。

ハンケ:ひとつはグーグルグラスのような、視覚経由で情報を取得するメガネ型デバイス。もうひとつが、耳に装着する聴覚型の端末です。ここにAIを活用したバーチャルアシスタントを組み合わせれば完璧です。

視覚と聴覚を組み合わせた端末になるのでしょうか。

ハンケ:いえ、聴覚だけの可能性もあります。スカーレット・ヨハンソンが出ていた「her」という映画がありましたが、その世界と一緒ですね。視覚なのか聴覚なのか、それともその両方なのか。それは私にもまだわかりません。

ナイアンティックとして、ゲーム以外の分野に参入する考えは。

ハンケ:あります。会社としてのゴールは、ARを活用したいろいろなアプリケーションやサービスを生み出すための技術的な基盤(プラットフォーム)を提供する会社になる、ということです。ゲームはそのスタートに過ぎません。ゲームで培った技術を、将来的には旅行やショッピング、あるいは恋人とのデートにも使えるようなARプラットフォームの開発につなげていきます。

ゲームはROIが高い

ではARを活用するフィールドとして、ゲームを選んだのは何故ですか。

ハンケ:それは単純に、ゲーム事業のROI(投資に対するリターン)が高いからです。その技術を使いこなすのに努力が必要になりますが、楽しんでもらえる。実用的なアプリケーションの場合、(技術が成熟するまでの)リターンは低く、しかも使い勝手を高めるためにそれ相応の投資が必要になります。

ゲームは何か不具合があっても所詮遊び……ですよね。

ハンケ:パソコンが普及し始めた30年ほど前も、最初は「家計簿をつけられますよ」「夕食のレシピを保存しておけます」というのが宣伝文句でした。けれど実用的ではなくて、誰もそんなことはしなかった。当時のパソコンでみんなが何をしていたかというと、ゲームで遊んでいたのです。

 広い意味で「携帯する端末」ということでいえば、iPhoneが登場するより遥か前に任天堂のゲームボーイが登場しているのも、同じですよね。最新技術の扉を開くのは、いつもゲームなんです。私たちがARを活用する対象として最初にゲームを選んだのも、ごく自然な流れだったと思います。

さきほどARで買い物を変えることもできる、と話していました。ナイアンティックなら、どんな体験ができるようしますか。

ハンケ:小売業は、本当に「再発明」されなきゃいけない業態だと思います。みんな悪戦苦闘しています。消費者は、店まで足を運んだのにネットでも買える商品が売り場に並ぶだけの光景を目にするのに飽き飽きしています。たとえばAR対応のメガネ型デバイスを使えば、手に取ったジャケットをその場でバーチャルに試着して、自分に似合うかどうか確認できるようになるでしょう。

 私が成し遂げたいのは、身の回りの商品の脱・コモディティ(汎用品)化です。シャツでもジャケットでも靴でも、私たちの身の回りの商品は本当に安く売られるようになっています。しかし、大量生産された安価な商品を漫然と購入する時代はじきに終わるでしょう。これからは商品について深く知識を得たうえで購入する時代になるはずです。

 商品はどこからやって来たのか。職人が手作りしたのか、それとも工場で生産されたのか。使われている素材は環境に優しいものなのか……。ARを使えば買い物を単なる「商品を入手する行為」ではなくて「商品にまつわるストーリーに耳を傾け、学びを得る体験」に変えられるのです。