ポケモンGOの成功は、IT業界にどんな影響を与えたと思いますか。

ハンケ:ARに注目が集まり、関連産業の盛り上がりに火がつきました。米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOに、アップルのティム・クックCEO。あるいはグーグルのスンダー・ピチャイCEO……。いずれもポケモンGOの配信前は、ARについての言及は少なかったと記憶しています。

 元々フェイスブックとグーグルが熱心だったのはVR(仮想現実)でした。アップルに至ってはVRについても言及が少なかったように思います。それが、状況が全く変わりました。ポケモンGOの配信が始まったあとの決算発表会などでは、必ずといっていいほどARの活用について語られるようになりました。

VRとARの可能性について、ハンケCEOはどう考えていますか。

ハンケ:VRは、現実世界とは隔離された場所での体験です。現実世界とは完全に切り離され、ファンタジーの世界に足を踏み入れていくようなものです。VRとARは同じ文脈上にある技術としてとらえられがちですが、仮想の世界に入り込むVRは、現実とデジタルを組み合わせるARとは根本的に異なるものです。

ただ日本では一般的に、ARよりVRのほうが導入が進んでいます。

ハンケ:もちろん「VRに投資するべきではない」と言いたいわけではないですよ。ただやはりVRとARの得意不得意を理解しないといけない。

 VRは、ホームシアターの延長線上にあるものだと思います。DVDがブルーレイになって、ハイビジョンテレビが4Kテレビになって、ステレオが9.1チャンネルサラウンドになった……そんな流れで、次に何がほしいかと考えたときに選択肢として浮かんでくるのがVRだと思うのです。

 ただしVRが素晴らしいものであっても、大きなゴーグルで現実世界と自分を遮断し、「仮想の映像内に身を浸す」というのは、人が朝から晩までやることではないだろう、というのが私の考えです。

人間は現実世界を生きているから、と。

ハンケ:そうです。家にいてリラックスしたいときはVRが適していると思います。ただ、ビジネスとして可能性があるのは家の外で使える技術ではないでしょうか。ARは、現実世界にデジタルの付加価値をもたらしてくれます。家で楽しむ仮想の世界より、現実世界に影響する技術のほうが応用の幅も広いはずです。

 ポケモンGO以降、IT企業もこぞってARの開発に本腰を入れ始めています。これは私たちにとっても、とってもエキサイティングな時代になった、といえます。今後はARに最適化されたハードウエアが登場すれば、ますますARは人々の支持を得ていくことになるのではないでしょうか。

グーグルグラス、コンセプトは間違っていなかった

ARに最適化されたデバイスという文脈では、2013年に発表されたグーグルグラスが思い浮かびます。しかしグーグルグラスの販売は開発者向けに限られ、消費者の手に届くことはありませんでした。

ハンケ:一般論として「グーグルグラスは失敗だった」と考えられています。けれど、これは単にハードウエアの性能が足りなかったというだけ。コンセプトが間違っていたとは思いません。将来人類が振り返ることになったとき、グーグルグラスは技術史に残るマイルストーンとして位置づけられることでしょう。

 どんな分野の製品であっても「世界初」が最も成功するとは限りません。任天堂のファミコンだって、世界初のテレビゲーム機ではありません。iPhoneだって、世界初のスマートフォンではありません。いろんな製品が繰り返し繰り返し開発され、投入されるなかで、いつかブレークスルーが訪れるのです。

 ARに最適化されたデバイスでブレークスルーが起きるのも、時間の問題だと思います。グーグルだけではなくて、最近はエプソンもARに対応したメガネ型デバイスの開発を進めています。米Osterhout Design GroupやMiraという会社も、魅力的な製品の開発を進めています。

ちなみにスマートフォンは、ARにとっては理想的なデバイスではないということですよね。

ハンケ:そうですね。スマートフォンは、ARにとっては本格普及に向けての「つなぎ」のデバイスだと思います。