たしかにポケモンGOでは、ポケモンを捕まえるのにも攻略アイテムを入手するのにも、現実世界を歩き回らないといけない仕組みになっています。

ハンケ:はい。現実世界では、通りかかることはあっても立ち止まったことはない場所ってよくありますよね。日本であれば近所の神社、とか。ほかにも歴史的な建造物や場所、看板、石像、石碑などなど、私たちの身の回りはいろんな興味深いものであふれています。ただ、その事実に気づかないまま暮らしている人も多いのではないでしょうか。私たちは、ゲームを通じて彼らの背中を押し、日常生活の楽しさや面白さに気づいてほしかったのです。

 外を歩いていれば運動にもなります。運動すると脳の動きも活性化します。部屋のなかでソファに寝転んで(動画配信サービスの)ネットフリックスを鑑賞しているのと、出かけた先でポケモンGOをプレーして歩き回るのとでは爽快感がまったく違う。

 ですからポケモンGOの楽しさは、単にピカチュウを捕まえることにあるのではありません。外を歩き回って、足を運んだことのない場所に出向き、その場所でいろんな人々とつながる点にあるのです。この「外を歩き、新たな視点をもって様々な場所を訪れ、人とのつながりを楽しむ」という3点は、ナイアンティックが非常に重視しているコンセプトです。

「ピカチュウがあらわれる」はARの本質にあらず

17年12月に実施したアップデートでは、プレーヤーがいる場所の天候の変化に応じて、ゲーム内で出現するポケモンの種類が変わる機能を加えました。

ハンケ:世界中の気象データをリアルタイムで取得することで、プレーヤーが今いる場所と同じ天気を、ゲームの世界でも再現しています。ARというと「カメラを通じてとらえた画像に、ピカチュウのようなデジタルのオブジェクトを合成すること」というふうに思われる人もいます。が、それは違います。

 ARは視覚的な体験にとどまりません。現実世界とデジタルの世界をつないで両者の垣根をなくしていく取り組み、言い換えれば、現実世界にデジタルの情報がシームレスに共存するための取り組み、その全てを含んだ言葉なのです。

現実世界とデジタルの世界をつないでいく……。天候のほかには、どんなアイデアがありそうですか。

ハンケ:いくらでもありますよ。社員ともよく話をしています。たとえば天気以外では、季節というのも一つの要因になりうると思います。

 それから、こんなのはどうでしょう。最近では航空でもバスでも、あるいは船舶の運行会社でも、運行データをリアルタイムに更新して、一般にも公開しています(編集注:民間の旅客機ならflightradar24など)。このデータをゲームの世界と連動させることができたら、面白そうだと思いませんか?

 たとえばゲームの世界で使うアイテムを持って、バス停まで足を運んだとします。現実世界でバスがやってきたら、ゲームの世界でもバーチャルのバスがやってきて、手元のアイテムを「載せる」ことができる。現実世界でバスが移動するにつれ、ゲーム内の世界でもアイテムが移動していくのです。ゲーム内でバスがアイテムを「運んでくれる」ということですね。

 飛行機にアイテムを載せれば、地球の裏側までアイテムを運んでもらうような新しい体験も可能になります。これも現実世界とデジタル世界の融合です。

なかなか斬新ですね。

ハンケ:反対に、ゲームの世界で起きていることを現実世界に反映させることもできます。ナイアンティックの位置情報ゲーム「イングレス」では、ゲーム内で何が起きているかの情報を公開しています。ですからゲーム内で自分のチームの陣地が攻撃されると、現実世界でもその場所に置いてある照明の色が変わったり、スモーク装置を作動させたり、ということも可能になります。

 要するにIoT(Internet of Things、モノのインターネット)ですね。ソフトバンクの孫(正義)さんもよく語っていますが、これからは世界のあらゆるモノがインターネットにつながる。ARを活用すれば現実世界とデジタルの世界は溶け合い、両者の垣根はますます低くなっていくのではないかと思います。