ストーカー規制法が2000年に施行されてから既に17年以上が経過しています(注*4)が、相談件数は2013年から2017年まで5年連続して2万件を超え、減る様子はありません。むしろ増えている。だとすれば、ストーカー的な欲求というのは人間の脳に元々、内在しているものなのではという仮説も浮かびます。

(注*4)ストーカー規制法は折々で改正され強化されてきた。現在、ストーカー行為として定めているのは以下の8項目。(1)つきまといや待ち伏せ、押しかけ、見張り、自宅周辺をうろつく/(2)監視していると思わせる・監視していると告げる/(3)面会、交際を要求する/(4)粗野、乱暴な言動/(5)無言電話や執拗な電話、連続してメールやファクシミリを送信する/(6)動物の死体、汚物などを送付する/(7)名誉を傷つける/(8)わいせつな写真を送り付けたり卑猥(ひわい)な言葉を告げたりする、性的な嫌がらせをする

小早川:社会はストレスフルな状況を高め続けていると感じます。普通に生きていても、死ぬかもしれないと無意識に細胞の一つ一つが感じているのではないでしょうか。ストレスに抵抗するために、意思とは関係なく生きるための本能(生殖、摂食、防御)は喚起されます。その行動が過度になれば病につながっていくこともあります。性犯罪、摂食障害、うつ病などです。男女間のストーカー行為は生殖本能の「過作動」から来るものと考えます。

 ストーカー行為に限らず、ストレス社会は人を過剰な行動に駆り立てるものなのです。

ストーカー行為は本能の「過作動」。(写真:zzvet/123RF)写真はイメージです
ストーカー行為は本能の「過作動」。(写真:zzvet/123RF)写真はイメージです

SNSの普及が、ストーカー増加の背景に

ストーカーが増加している背景として、最近はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の影響も大きいと言われますね。

小早川:SNSを誰もが使うようになり、結果としてストーカーは「掛け算」的に増えているように感じます。つきあってもいない知人や、面識のない人からもSNSへの書き込みなどを介してストーカー被害にあうことも珍しくありません。ストーカー側から見れば、SNSは相手の情報を入手したりストーカー行為をしたりするための、格好のツールになったわけです。

 例えば、芸能活動やネット上のアイドルをしている人がストーカー行為にあうといった事件(注*5)も最近しばしば報道されますよね。一方的に好意を寄せて、相手にプレゼントをしたり、一対一で会いたいといったことをほのめかしたりしても、芸能活動をしているような人は立場上、ハッキリ拒否できないことが多いのです。しかし、相手の欲求が限度を超えたらキッパリ断らないと、面識もないのに「つきあっている」かのように加害者の脳が錯覚して、過剰な接近欲求が爆発していってしまう。

(注*5)一例として、2016年5月、東京・武蔵小金井のライブハウスの入り口で、出演予定だった女子大学生の歌手がファンの男に刃物で刺されて重傷を負った事件がある。被害者の歌手と加害者は、SNS上だけでやりとりのあった間柄だった。

 また、SNSの登場やネットの普及で、男女間のあいまいな関係も増えました。

あいまいな関係がストーカーを生む

「あいまいな関係」とは、どういうことでしょう?

小早川:例えば、LINEやメールで「つきあってほしい」と申しこんで、了解の返事があればリアルの世界で会うことがなくても、「自分たちはつきあっている」という感覚を持つ人も、最近はいるようですよ。