小早川さんの話を聞いて諭されたことで、ストーカーはすんなり身を引くものですか。
小早川:いいえ。私が直接話す機会を持ったことにより、「自分は相手に迷惑をかけている」という気づきを得て、「もうやめねば」と、即座に身を引く人は全体の1%くらい。非常に少ないです。
「歯止めが効かなくなった、自分の行動を誰か止めてくれ」と、自ら相談に来るストーカーもいますが、割合は少ないです。通常は、こちらからお願いして何度も会って、「自分は被害者だ」と主張する彼らの認知の歪みを少しずつ地道に変えていく作業が必要になります。本当に信じられないくらい、繰り返し語り合うことが不可欠になりますし、密度の濃い時間が必要になります。このため、私の場合は被害者より加害者に会う時間の方が、ずっと多いです。
加害者との直接の面談、メールのやりとりなども含めて何十回、何百回もの対話を重ねて、「俺は正しい」という言い分を聞きながら、考えの誤りを指摘していきます。その時、①相手(被害者)には自分(加害者)に関わる義務も必然性もないこと、②自分の感情処理は完全に自分がしないといけないこと、③違法行為は絶対にしてはならないこと──この3つの物差し(基準)を私は譲りません。
言い分が正当なものだと思うのであれば、私はストーカー行為ではなく合法的な手段(訴訟)をとるようにアドバイスします。結果、もうストーカー行為をするべきではない、必要もないと理解して止めるストーカーが、先ほども申し上げたように約8割。残りのストーカーも、ここまで来くれば、少なくとも問題は相手のせいではなく「わかっちゃいるけど、やめられない」自分にあることを理解します。私は対話(思考に働きかける)から心理療法(感覚や感情に働きかける)に切り替えます。
例えばある元加害者の男性の場合は、ストーカー行為は止まっていますが、十数年を経過した今も被害者意識を持ち続けたままです。彼は今では、被害者とは別の女性と結婚して子供もいるんですよ。にもかわらず、今も被害者意識や被害者に対する憎悪の感情を持っていて、「やっぱり僕は被害者ですよ」と私の携帯に電話がかかってきます。
異常なストーカーと一般人との境目とは
普通の人間でも、恋愛や友人、仕事仲間…との関係の延長線上でトラブルを起こしたり、起こされたりすることはあると思うのですが、ストーカーとそうでない人間との境目はどこにあるのでしょうか。
小早川:相手が「嫌だ」と言っているのに無許可で接近すれば、私は「ストーカー行為」だと思っています。接近の動機はビジネス上の目的であったり、クレームであったり、何かの勧誘であったりすることもあるので、いわゆるストーカー行為をする人が全てストーカーだとは言いません。ストーカーとは、「特定の相手に対する過剰な関心と、過剰な接近欲求により、無許可接近をする人」だと私は定義しています。
ストーカーは、恋愛感情のもつれだけでなく、友人や、親子の場合も、仕事の取引先という場合もあり得ます。親子の場合、子供の時には親から虐待を受けていて、それがある瞬間から立場が逆転するということも少なくないです。思春期になって親に暴力をふるうようになり、それで親を支配する達成感が嗜癖(しへき)になってしまったようなケースです。親を監視するストーカー行為を、何十年も続ける人もいます。

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