普段はおとなしいけれど、ストレスを受けると

 孤独な人や、ストレスフルな人が多い…。

小早川:そうした人が多いという傾向は確かに言えると思います。孤独な人について言えば、最近増えているのが定年退職したシニアのストーカーです。シニアのストーカーは、会社に勤めていた頃には周囲から頼りにされたり尊敬されたりしていたけれども、多くは退職後に孤独を味わっています。誰かの役に立っていない、相手にされていない、関心を持たれなくなって満たされない、だから孤独になる。そうした心理が背景にあるというケース。

女性同士のストーキングを描いた『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子 著)
女性同士のストーキングを描いた『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子 著)

 一方、普段きちんとした現役のビジネスパーソンの方でも、競争のストレスが過剰にかかると無意識にストーカー行為への欲求が高まるということがあります。ストレスを受けると、植物でも動物でも生きようとする本能が強まります。本能の一つである性的欲求が高まれば異性への接近欲求が底上げされます。ストレス過多の仕事に関わる人がストーカー行為や痴漢行為をするというのも不思議なことではないのです。競争も孤独もストレスです。ただ、ストーカーは自分の行動の底流に無意識の生存欲求があることをほとんど意識してはいません。

 以前、元外交官で作家の佐藤優さんから、女性同士のストーキングを描いた、柚木麻子さんの小説『ナイルパーチの女子会』(注*2)という小説の存在を教えていただいたことがあるのですが、タイトル名に入っている「ナイルパーチ(注*3)」というのは魚の名前で、普段はおとなしいけれども、ストレスの多い環境では凶暴になるのだそうです。人間も同様だと思います。

(注*2)日々ハードな仕事に追われる、あるキャリアウーマンの楽しみは、同い年の主婦の書くブログを読むことだった。最初は単なるブロガーと愛読者の関係だったが、やがて読者であるキャリアウーマンが、恐るべきストーカーになっていくという物語。山本周五郎賞受賞作。

(注*3)アフリカ原産の大型の淡水魚。大型の淡水魚としてはおとなしい方だが、ストレスフルな環境に入ると生き延びるために凶暴になる。競争の激しい環境に放流されると、その水域の生態系を破壊してしまう外来種として知られる。

孤独を背景に、増加するシニアストーカー

自分も中高年なので、退職した孤独なシニアがストーカーになるという話には、心が痛みます。

小早川:退職後にストーカーになるような人は、現役で仕事をしている時はワーカホリック(仕事中毒)だった人が多いのです。ストレスをものともせずに過剰に仕事をやってしまう。何十年も仕事中毒で「フル回転」が当たり前になっていると、回転が止まった状態に脳がなじめない。

 「フル回転」とは刺激に対する反応の速さを言います。車に例えればちょっとアクセルを踏めばすぐにエンジンがかかるといった「駆動力」の高さのことです。こうした人は人間関係においても、相手が嫌がっていようがお構いなしにアクセルを踏み続け、接近を止めない。ストーカーは自分の「駆動力」の高さに無自覚な人がほとんどです。

人生の終盤にさしかかり、孤独を背景にストーカー化することも。(写真:olegdudko/123RF)写真はイメージです
人生の終盤にさしかかり、孤独を背景にストーカー化することも。(写真:olegdudko/123RF)写真はイメージです

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