日本の消費者に伝えるのとは違う難しさがありますか。

勝田:僕は単純に、十分できてないだけだと思っているんです。楽観しているつもりはないですけれど。僕たちの品質とか、もっと接客で伝えることは大事です。ただそうしたことの前に、今全米で40店舗以上あっても、まだ米国の消費者にとっては「Who Is UNIQLO」(ユニクロってなに?)という状態なのでしょうね。

 「ユニクロアンドルメール」をつくるときも、フィッティングを6回もやって作り直しているんです。プロセスはラグジュアリー(高級ブランド)と同じだと言えると思います。時間も経費もかけている。それでも手が届く値段で売るのが僕達なのです。こうしたプロセスとかディテールの良さを米国では伝えきれていなかった。もちろん新参者だったのもありますし、これからもっと伝えていきたいのです。

世界では品質プラス日本の「粋」で勝負

ニューヨークなど世界の主要都市では大抵、ユニクロと「ZARA」や「H&M」が近くで競合しています。 ユニクロアンドルメールでこだわった「プロセスはラグジュアリー」というような作り方は競合はやっていないのでしょうか。

勝田:うちと同じような価格帯でビジネスをしているところは、たぶんやってないんじゃないでしょうか。良いデザインというときに、表面的なデザインだけじゃなくて、いわゆる品質や縫い方も含めたトータルなものがデザインというふうに僕は思っています。今は根気よく良さを伝えていく時期なのかなと思いますが、ブランドマーケティングとして全米の国民に伝えるようなこともどんどん仕掛けていきたい。明るい兆しとしては「ウルトラライトダウン」や「ヒートテック」という主力製品は認知され始めていますよ。

自動車に代表されるように日本企業の品質の高さは国際的に競争力があるとは思います。衣料品の場合は品質に加えて何か付加価値が必要なのでしょうね。

 コラボレーションで海外の方々と仕事をすることによって僕自身、日本人や日本の文化というものを改めて考えるようになりました。最近すごく好きな言葉は「粋」です。「○○さん粋ですね」みたいな。これ英語に簡単には訳せないですよね。もともと江戸時代に「粋」という言葉が生まれたようで、すごくシンプルなものに対する、美に対する表現なんですって。どっちかというとそれはすごく庶民から生まれた言葉だそうです。控えめで、心の内に秘めているんだけど、ちらちらとその人の生きざまとか、きらっと光るセンスのよさとかが、表に出てくる。「ユニクロのTシャツって日本独特の、粋でしょう」と言えるようになってくるといいなと思ってます。「ただの白いシャツじゃん。でも粋だよね」と。

国内のユニクロ事業は昨年11、12月に売り上げが大きく落ち込むなど苦戦していますね。値上げが要因という指摘もあります。

勝田:価格の問題だけじゃなくて、自分自身の反省があります。「シンプルで上質で長く使える」まではよかったんですけど、若干「時代の新しい息」の吹き方が足りなかった。自分の立場として、やっぱり世の中の情報化が進む中で、僕たちがお客さんに十分響く商品がちゃんと提案しきれていなかったんじゃないか、という反省はあります。

それはトレンドを取り込むのが不足していたということですか。

勝田:トレンドって言葉は難しいですよね。トレンドって2つあって、ひとつはみんなわーっと飛びついて、消えていくトレンド。もうひとつは、だんだんと定番になっていくトレンドです。後者のトレンドを探して、皆さんになくてはならないアイテムを作っていくのがユニクロなんです。10年ほど前に「ユニクロといったらスキニージーンズ」という感じでヒットしました。始めた当初は「あんな、ぴちぴちのジーンズは日本人には無理です」と言われましたが、今ではもうファッションじゃなくて定番ですよね。ウルトラライトダウンとかヒートテックはファッションというよりも、テクノロジーから入っていますけど、ないと不便、ないと困るというようなアイテムになったという意味では同じなんです。

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