そのためには社内のデザイナーだけでなく、外部の有力デザイナーとの協業が必要だったというわけですか。
もちろん僕たちの社内のデザイナーも一生懸命やっているんだけど、やっぱり先に進んでいくためには、こうしたコラボレーションはものすごく意味があったと思います。当社はメッセージとして「服に個性があるんじゃなくて、着る人こそが自分の価値をつくるべき」と主張している。「僕たちの服はシンプルで、上質で、長く使えるという日本独特の価値観をもとに、時代の息吹を取り込んでつくる」ということをやりたいのです。できている、できてないは人によって採点は違うけど、常に100点に近づけるよう努力をするし、そのためのヒントを得て、突き詰めるためにデザイナーとの協業をやっているんです。
今販売している「ユニクロアンドルメール」は、これまでのコラボレーションの中で、最も幅広い客層に売れているそうですね。
勝田:ルメールに関しては、すごく時代感もマッチしたのかなと思うんですよね。今、求められているのは「ノームコア」(究極の普通)だとか、「リラックス」だとか言うじゃないですか。もともと彼の服というのは自身の哲学があって10年前も同じなんですが、今の時代感には合ったのでしょうね。ユニクロはシンプルで上質な長く使える服をつくってきましたが、そこにルメール氏が時代の新しい息を吹き込んでくれ、若い人から僕の母親の世代まで買ってくれる現象が起きたのかなと思います。
米国のユニクロが苦戦する訳は?
2009年~2011年に手掛けた「+J」は、根強い人気があって復刻版もつくりましたね。
勝田:サンダーさんと「+J」をやったときに思ったのは、偉そうに本物とか言ってきたけど、まだまだ僕らは甘かったと思わされた。サンダー氏のものづくりへの最後の最後までのこだわりと徹底は生半可じゃない。僕もその当時、ファッション業界へ入って約20年たっていて、それなりの自負はあったんだけど、まだケツの青いお兄ちゃんなんだなと。サンダーさんは本当に1ミリ、2ミリのこだわりで「+J」のロゴだって1ミリづつ違うものを十何種類ぐらい作って選ぶんですから。
ユニクロの店舗に行くと当然、売り場の大半を占めるのは、著名デザイナーとのコラボではない一般的なカジュアル衣料です。こうした通常の商品のデザインのレベルは過去10年で向上しましたか。
勝田:そういうデザイナーの方々と一緒に働くことによって、それ以外の一般の商品も、ものづくりへのこだわりとか、社員たちの目線の厳しさというのは上がっていっています。日ごろの業務の進め方も変わってきた。同じ白いTシャツでも、今のものと10年前と比べると毎年良くなってきたと思います。あえて僕はコラボレーションも通常の商品をやっている人も同じ社員が兼任でやるようにしているので、シナジー効果はでているのではないでしょうか。
ファーストリテイリングの2015年8月期の売上高は約1.7兆円で、すでにユニクロは海外店舗が日本国内より多い状況まで来ました。ただ中国事業は非常に好調ですが米国は赤字です。一方で「ZARA」を展開するスペインのインディテックス、H&Mは2015年度の全世界の売上高は2.5兆円を超えています。彼らと互角に戦おうと思えば、巨大市場の米国でユニクロのブランド認知度をもっと高める必要がありますね。
勝田:そこはいろいろ問題があって、今解決しようとしています。ものづくりなど一生懸命頑張っていることは紛れもない事実なんですよ。1000円のTシャツでも大変こだわってつくっている。ただそうしたことを米国ではお客さんに伝えきれていないと思います。
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