勝田さんが働いていた高級ファッション業界が「特別な人たちの世界」だったとすれば、ユニクロのビジネスはその対極のイメージです。

昨年から販売している「ユニクロアンドルメール」はエルメスの元デザイナーと協業している。
昨年から販売している「ユニクロアンドルメール」はエルメスの元デザイナーと協業している。

勝田:11年前にファーストリテイリングに入ったころユニクロの売り場に立ってじっと見ていました。そこで「店のセンスはお世辞にもいいとは言えないけど、お客さんがいいな」と思ったんですよ。要はお客さんの方が実は研究していて、何々はここで買って何々はここで買ってと、情報をもって使い分けていたんですね。

 変な話、「ユニクロは品質がいい。下着は見えないからユニクロでいいや」という感じでしたね(笑)。あのころユニバレという言葉もあったの覚えていますか。ユニクロを着ているのがバレるという。社内の朝礼で社員のみんなに「ユニクロでいいや」から「ユニクロがいい」というように変えようよとで演説したのを覚えています。

 そのとき僕が社内で伝えようとしていたのは「お客さんは研究している。僕も売り場に行ったら想像以上にお客さんは知っていて、逆に僕たちを使い分けている」ということです。「君たちねデザイナーとかパターンナーとか言ってカタカナ系の仕事で、業界っぽいかもしれないけど、お客さんの方が君たちよりも知っているかもしれない。そういうつもりで仕事してね」という話をしたんです。

 それから11年経って、お客さんの情報収集というのが一層進んで、僕たちも情報の考え方について1歩どころか、3歩、4歩、5歩と進んでいかないと、置いて行かれてしまう時代になりました。物を買っていただこうと提案するときに、ごまかしがあったり、表面的なデザインだったりすると、お客さんに「違う、違う」と見抜かれちゃうわけですよ。

デザイナーとのコラボで前に進んだ

ユニクロは勝田さんが仕掛けて、世界の著名デザイナーとのコラボレーション商品を売り出してきました。2009年にジル・サンダー氏と組んで「+J」を売り出し、昨年からは仏高級ブランド「エルメス」の元デザイナーであるクリストフ・ルメール氏と協業して「ユニクロアンドルメール」を販売し、好調です。コラボレーションの狙いは何ですか。

勝田:外部のデザイナーと取り組み始めたのは2005~06年ごろです。あの当時、すでに競合他社がデザイナーとの協業を始めていましたね。

2004年にスウェーデンのヘネス・アンド・モーリッツ(H&M)が、シャネルのデザイナーだったカール・ラガーフェルド氏と組んで格安な製品を売り出し話題をさらいました。

勝田:僕らはいいものを作りたいという思いが強くあったのです。もちろんいいものかどうかは、お客さんが評価することではありますが、僕たちとしてはデザイナーが無名か有名かというよりも、本当にいいものをつくれるかどうかというのにすごくこだわりました。まずは当時はみんな知らなかった新進デザイナー、アレキサンダー・ワン氏などと取り組みました。あのときドレスを8型作ったんです。アレキサンダー・ワンで3900円という、あり得ない価格で、あっという間に売り切れましたよ。

 本物を手に入れたいと思うと、それなりのお金が必要というのが常識じゃないですか。つまり一部の人しか本物を知ることができないという構図です。でも僕たちがやりたいことは本物だけど、誰でもそれを手に取れて、着られて、楽しめてというようにすることなんです。もしかしたら生活の役に立ったり、少し着る人の気分を上げたりできる。それを毎年、毎年追い続けたいのです。

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