世界的にも最悪レベルにあると言われる日本の通勤ラッシュ。ただでさえストレスフルな環境の不快指数をさらに高めているのが、電車の中での様々なマナー違反だ。日経ビジネス電子版(旧日経ビジネスオンライン)では2014年、その代表格として「電車で中ほどまで進まない人々」に着目。心理学のスペシャリスト・川西由美子氏の力を借り、「中ほど」まで進まない人間には“脳の回路”にある種の欠陥があることなどを解明。大きな反響を呼んだ。
だが、電車の中の環境を悪化させている人は、まだまだいる。例えば、「隣の人に異常にもたれかかってくる人」もその一例だ。悪気はないのも、疲れているのも分かる。が、サービス残業が当たり前の日本社会で疲労しているのは皆同じ。どんなに疲れていても姿勢正しく座っている人もいる。電車で異常にもたれかかってくる人の末路について、川西氏に話を聞いた。
聞き手は鈴木信行

オランダに本社を置き、世界39の国と地域に拠点を持つ総合人材サービス企業、ランスタッドのEAP総研所長 兼 ビヘイビアルヘルス(行動健康科学)コンサルタント。臨床心理学と産業組織心理学が専門で、病院内のストレスドックや、企業向けには安全文化や品質向上のコンサルテーションも手がける。海外ではベトナムやインドネシアの企業に対し、組織再編時のチーム力向上講演も行う。小児ガンの子どものための活動、認定NPO法人ゴールドリボンネットワーク理事を務める。
というわけで、2014年以来のご登場です。前回は「電車で中ほどまで進まない人」を分析していただきました。今回は「電車で異常にもたれかかってくる人」がテーマです。
川西:実は私が「結構もたれかかるタイプ」なんです(笑)。電車で移動する時に座ってしまうと段々眠くなり、時には、右へ左へゆらゆらと、「起き上がりコボシ」のようになってしまい、隣の人に押し返されることもしばしばです。もたれないようにしてはいるのですが。気が付くと目的地、ということもよくあります。
どうなんでしょう。「電車で中ほどまで進まない人」については、「“脳の回路”にある種の欠陥があり、気を利かせる力が低い」などの仮説が並び、「そういう人は厳しい企業社会で生き残るのは難しい」との読後感を読者に残しました。同様に、電車で異常にもたれかかる人も、「体力・精神面で、企業戦争を生き抜くためのたくましさがない人材」のような気がするんですが。ご本人を目の前にしてなんですが。
川西:私は必ずしもそうは思いません。むしろ電車の中で色々考え事をしながら起きている人より、厳しい企業社会に適応し、新しい発想やアイディアが出やすい人ではないかと考えています。
ついに解明、電車でもたれかかってくるメカニズム
えええ。公衆の面前で前後不覚に陥るのに?
川西:まず、なぜ電車で座ると横の人にもたれかかるほど寝てしまう人がいるのか、脳のメカニズムの観点から説明します。生きている人間の体の中には、細胞活動に伴う微弱電流が流れています。脳細胞の電気的活動を記録したのが脳波です。
波の形になっていますよね。
川西:そうです。極めて簡単に言うと、脳波は起きている時は早く、眠る時は遅くなります。起きている時はベータ波と呼ばれる波が主流で、1秒間に13回以上振動します(13Hz以上)。目を閉じるとアルファ波(8~13Hz)、眠るとシータ波(4~8Hz)が現れ、深い睡眠に入るとデルタ波(4Hz以下)が強く見られるようになります。
なるほど。寝ると脳波は遅くなる、と。
川西:一方で、人間の脳は「同調作用」というものがあります。
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