昨日と同じ今日、今日と同じ明日が続いていく、と。でも、さすがに出世の道は閉ざされますよね。

多田:どうでしょうか。飲酒運転とか刑事犯罪では出世は難しくなると思います。でも残業事案は別ではないでしょうか。

それって、例えば「従業員に過剰労働させて利益を搾り出すべきだ」という価値観が蔓延している会社の場合、残業で摘発されることは「勲章」になるし、書類送検された人間が「英雄」になる可能性もあるってことですか。

多田:あるかもしれません。

その場合、反社会勢力のジギリ(自切り、組織のために体を張ったり、服役したりすること)のように、「お勤めご苦労様」とばかりに、かえって優遇されるなどということも起こり得る?

多田:どうでしょうか。ただ、あくまで不起訴ですから、「確かに書類送検されたが不起訴だった。これは検察が無実と証明したのと同じである」という理屈で、そうした人物を重用する企業があったとしても、不思議ではないとは思います。付け加えると「不起訴だから無実」という考え方は本当は正しくありません。同じ不起訴でも、「無実」と証明されて不起訴になる場合もあれば、「グレーだけど起訴には及ばない」と判断されて不起訴になる場合もありますから。

部下の残業で書類送検されても大したことない!?

言い方は乱暴ですが、何だか部下の残業で書類送検されても大したことない気がするんですが。

多田:そういう言い方もできるかもしれません。不起訴になれば書類送検された記録も残りません。正確に言えば検察に履歴は残りますが、一般人がそれを閲覧することはできません。

そうなんですか。だとすれば、残業の強要で体を壊して亡くなられた方は浮かばれないと思います。

多田:でも、これからは変わってくるかもしれません。

本当ですか?!

多田:確かに、これまでは労働基準法違反で書類送検されても個人は不起訴になるのが普通でした。でも、こんなに世の中で「違法な残業は許さない」という機運が盛り上がってくると、悪質な事案は起訴される事例が出てきてもおかしくありません。起訴されて有罪になれば、労働基準法の罰則には懲役刑まで明記されています。

前例を踏襲せず、法律を厳密に運用すると、“不届き者”に、もう少しだけ反省してもらえるようにもなる、と。

多田:そうです。ただ、違法な残業を根絶するには、今は労基署のマンパワーが足りません。少ないマンパワーで社会全体の残業を抑制するには、ある程度、「狙い撃ち」が必要になります。その意味で、これからは、社会的影響力の大きい企業と使用者を、“見せしめ”的に書類送検する事例が増える可能性があります。厚生労働省もこれだけ残業問題がクローズアップされてきている以上、今まで以上に力を入れてくると思います。そうなれば少なくとも現在の状況は変わってくる可能性があります。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「キーパーソンに聞く」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。