世界のM&A(合併・買収)総額は昨年、過去最高を更新し、日本企業による海外企業へのM&Aブームも続いている。だが今年は中国景気減速に伴い、世界経済が急速に暗転し始めた。「日本国内の低成長をM&Aで補う」「海外市場開拓のために時間を買う」。こういった掛け声のもとに、日本企業は従来通りM&Aに突き進んで大丈夫なのだろうか。米投資銀行に勤務して大型案件を多数手がけた経験のある早稲田大学大学院ファイナンス研究科客員教授の服部暢達氏に聞いた。(聞き手は鈴木哲也)

2015年の世界のM&Aの総額は前の年から大幅に増えて8年ぶりに過去最高水準でした。総額が5兆ドルに達したという調査もあります。ビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)による英SABミラーの買収など大型案件も相次いでいます。2016年も高水準のM&Aが続くでしょうか。

<b>服部 暢達(はっとり・のぶみち)</b><br/>早稲田大学大学院ファイナンス研究科客員教授。1981年、東京大学工学部卒業。日産自動車を経て89年6月、マサチューセッツ工科大学スローン・スクール経営学修士課程修了。1989年から2003年まで米系大手投資銀行に勤務、M&Aアドバイザリー業務を担当。98年からマネージング・ディレクターとして同業務を統括。2003年、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授、09年、早稲田大学大学院客員教授に就任。ファーストリテイリングの取締役も務める。著書に「日本のM&A 理論と事例研究」(日経BP社)など
服部 暢達(はっとり・のぶみち)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科客員教授。1981年、東京大学工学部卒業。日産自動車を経て89年6月、マサチューセッツ工科大学スローン・スクール経営学修士課程修了。1989年から2003年まで米系大手投資銀行に勤務、M&Aアドバイザリー業務を担当。98年からマネージング・ディレクターとして同業務を統括。2003年、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授、09年、早稲田大学大学院客員教授に就任。ファーストリテイリングの取締役も務める。著書に「日本のM&A 理論と事例研究」(日経BP社)など

服部:M&Aの総額は基本的にはやっぱり景気連動なんですよ。ほぼ株価連動だったりもするわけです。ですから今年、世界のM&A総額はあまり伸びないと思います。世界的に景気が悪くなる最大の原因は中国です。原油が安いのも中国が爆買いをやめるからですね。

 2008年のリーマンショックの後、中国は巨額の公共投資をすることで世界経済を支えたのですが、中国政府はやっぱり経済運営がうまくはないのですね。しばらくは非常にうまくいったんですけど。今の経済の変調は出るべくして出てきた問題です。世界に本当に深刻な影響を与えると思います。

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