タリーズコーヒージャパンを創業するなど、起業家として知られた松田公太氏が参議院議員選挙に出馬し、当選したのは6年前の2010年。「第三極」として存在感を発揮するために「みんなの党」に所属したものの、党が分裂し、自ら「日本を元気にする会」を立ち上げ代表に就いた。
国会議員としての6年間を「大きな達成感は得られなかった」と振り返る。この7月に参院選が控える中、「今後も第三極の立場を貫いていく」と強調する。
(聞き手は西頭 恒明)
この夏の参議院議員選挙で改選期を迎えます。企業経営者から政治家に転身し、所属した「みんなの党」の分裂も見てこられました。政治家としてのこの6年間をどう振り返りますか。
松田:そうですね、正直大きな達成感は得られていません。国民に国全体のための政策や決断を訴えることができる政治家を目指し、それは変わらず貫いてこられたと思っています。でも、もっと大きな第三極の政党を作って、もっと政治を変えたかった。
松田公太(まつだ・こうた)氏
1968年12月生まれ、47歳。90年筑波大学卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。97年に「タリーズコーヒー」国内1号店を銀座に開店、98年タリーズコーヒージャパン設立。2007年に同社代表取締役社長を退任、2009年Eggs’n Things International Holdings Pte. Ltd.を設立し、CEO(最高経営責任者)に就任。2010年参議院議員選挙に出馬し、当選。みんなの党を経て、「日本を元気にする会(元気会)」の代表に就任。
とにかく、私はしがらみがある政治が嫌で、そうではない政党が必要だと思っていたところに、みんなの党にお声掛けしていただきました。参議院議員に当選して、そういう方向へと進むように行動は取ってきたつもりですが、まだ実現はできていませんね。
逆にこれはできたんじゃないかと思っているのは、戦後70年間で最大の外交防衛問題と言われた「安保法制」について、修正をかけられたということです。
本当は対案を作って出したかったのですが、参議院では11人以上いないと対案が出せません。私が代表になって2014年12月に立ち上げた「日本を元気にする会(元気会)」は当時、5人しか国会議員がいませんでした。でも、修正案なら1人からでもできるんですね。それで、「存立危機事態で自衛隊が武力行使する場合は例外なく国会の事前承認が必要」という修正案を作り、新党改革や次世代の党にも加わってもらって附帯決議とし、一定の歯止めをかけることができました。
「落選」を怖がらない議員はぶれない
すると、第三極としてキャスティングボートを握るには、少なくとも11人以上の政党でなければならないわけですね。どうすれば志を共にする仲間を増やせるとお考えですか。
松田:参議院で言うと、15人くらいいればキャスティングボートを十分に握れるでしょうね。ただ、人数だけ増えればいいというわけではありません。次の選挙や大臣に出世することばかり気にする「政治屋」ではなく、国民全体のことを見回した政治ができる、真の「政治家」の集まりにしなければなりません。
当選した時には思いは同じでも、だんだん変節していく国会議員もいるでしょう。元気会に政治屋ではなく政治家をもっと集めたいと、今も考えていますか。
松田:思っていますよ。1人、自民党に行ってしまいましたけど、まだ4人残っていますから。みんなの党の出身者以外から、アントニオ猪木さんが加わってくれましたが、あの方の行動力はすごいし、ぶれが全くないですよ。別に次に落選したってやっていけるという自信があるから、どっしりと構えて落ち着いていられるんでしょうね。「落選したらただの人」という議員が、とにかく次の選挙で当選しなきゃと右往左往してしまうんですよ。
自民党と安保法制の修正案を協議した時、松田さんは裏取引したんじゃないかと疑われたそうですね。
松田:次の参院選の東京選挙区で、自民の候補者枠がまだ1人決まっていないと。それでそこに入れてもらうために交渉したんだろうと言われたんですよ。でも、もちろん裏取引など一切していません。
松田さんは違っても、今の自民一強の状況では、次の参院選や衆院選は鞍替えして自民から出馬したいという現職議員も多いでしょうね。
松田:「寄らば大樹の陰」ですよ。私は健全な議会制民主主義を発展させるなら、今の状況は本当に危険だと思っています。本気で国のためを思っているなら、そういう発想にはならないはずです。
でも、とにかく次勝てればいい、当選したい。特に今の自民党だったら当分安泰だろうから、自民に入れてもらって当選を重ね、いずれ大臣になれればと思っている人ばかり。あれだけ、みんなの党で「改革だ」と叫んでいた人が、国会に立って驚くくらいに前と逆のことを言っている。信念も何もなかったんだろうなと思いますよ。
「議員はやめた方がいいと?」
松田さんは先日、『愚か者』という書籍を出版しました。起業家として「タリーズ」を立ち上げた経緯とその後の成功や挫折、さらに参議院議員に当選してからこの6年間の議員としての活動などをまとめています。一番訴えたかったのはどんなことですか。
松田:まさしくタイトル通りです。たとえ愚か者と言われても、リスクテイカーになって新しいことにチャレンジしていく。信念を簡単に曲げずにやっていく。そういう生き方を読者の方に感じ取ってもらいたいというのが、この本の趣旨です。
読んでみて正直なところ、経営者のころの松田さんの話の方が、議員になってからの話よりも格段に面白かったんですよ。それはまさにリスクテイクしたことがきちんと結果になって表れているからで、政治家になってからはそこがあまりはっきりとしないんです。
松田:自分の中でもそれが分かっているから、最初に言ったように「達成感がない」と思うんでしょうね。
だったら、なおさら経営者としてリスクテイクして、挫折もあったけれど成功も味わったという世界に生きる方が、松田さんとしてはより自分らしい人生を送れるんじゃないですか。
松田:議員をやめた方がいいということを(笑)。
いや、そこまで言っていませんが…。
松田:そうだと思わないこともありませんが、ただやっぱり自分がいて多少変えることができた点もありましたから。安保法案の修正なんて、私が元気会という政党を作っていなかったら、間違いなく出てきた法案のままで通ってしまったでしょうね。
今すぐ、その結果がどうだということは分からないかもしれません。でも、数年後なのか、10年後なのか、存立危機事態と言われることが発生した時に初めて、私がやったことがプラスなのか、マイナスなのか評価されるのではないでしょうか。
自らの経験から語れる政治家が少ない
もう少し、企業経営と政治の比較をさせてください。日ごろ、経営改革を実行したり、業績を回復させたりしている経営者を取材していると、「この人が経営者だったから成し遂げられたのだろう」と感じることが時々あるんです。胆力とか威厳のようなものも感じる。一方、政治の世界に目を転じると、現政権の顔ぶれをはじめ、リーダーと言われる人がどうも見劣りする。松田さんは両方を見て、知っているからどう思いますか。
松田:やはり政界は偏った人たちしか入ってきていないなというのが私の印象です。安倍総理を含め、2代目、3代目ばかりじゃないですか。本当にゼロから民間でやってきて、突然、政治の世界に入って大臣になっている人なんて少ないですよね。
戦後しばらくはそういう人がいました。みんなの党の党首だった渡辺喜美さんのお父さんの渡辺美智雄さんなんか、そういうイメージでしたね。でも、ああいう人が少なくなって、家業とか身分保障みたいになってきていますよね、政治家も。
国会議員になって、いろいろな国会議員の方とお会いしてきました。私は多様な意見を聞くのが好きですから、共産党の人の話を聞くのも面白いと思うんですよ。ただ、自分の考えとは違いますが…。
その違う考えをなぜ持てるかと言えば、自分の経験を通じて培ってきたものだからです。でも、ほかの多くの政治家って自らの経験を土台にした主張じゃないんですよね。
聞いてきたこと、読んできたこと、あとお父さんなど上の政治家から直接教え込まれたことなんですよ。本当に世の中を見て、経験してきたことから、この結論にたどり着いたという人がものすごく少ない。そこに危うさというか、物足りなさを感じますね。
自分の考えとは違う意見にも謙虚に耳を傾けるという姿勢が、今の政治には欠けています。拒絶しているうちは、多様性というものは生まれてこないでしょう。日本の企業は多様性を重視するようになってきていますが、政治の世界はまだそこに達していません。
松田:安倍政権になってから、何か急に雰囲気が変わったなとは感じますね。この前の高市早苗総務相の「放送法」を巡る発言にしても、あれだけ問題になってしまうのは、やはりみんな危機感を持っているからなんですよ。
何でもかんでも自分の思い通りになればいいんだという経営者だと会社がダメになるのと一緒で、国のリーダーもそうなってしまうと国をダメにしてしまう。より幅広く、いろいろな人の意見を聞いて最終決断するくらいの人でないといけないなと思いますね。
「第三極として役割をしっかりと果たす」
そういう多様な意見をうまく取り入れて政策を実行していくには、確かに松田さんの言う第三極の存在は重要かもしれません。
「しがらみなく、是々非々の党でやっていきたい」と松田氏は話す
松田:そう、重要なんです。ですから、みんなの党も最初はそういう存在だと私は思っていたんですね。
「それじゃあ一生、政権は取れないぞ」と言われるかもしれませんが、まずはそういうところからしっかりと役割を果たすことが、今の日本の政治では重要なんです。そこから徐々に成長していって、それこそ「第二極」に置き換わるのかもしれませんし…。ただ、もしそうなったら、私はまた別の第三極になるところが現れるべきだと考えています。
そうすると、松田さんは仮に自分の政策をある程度実現してもらえるとしても、次の参院選で大きなところから出るのではなく、キャスティングボートを握れる第三極の立場を貫こうと考えているわけですか。
松田:それはもう全く変わりません。自民党や、あるいは今の民主党が大きなところと言えるかどうかは別にして、そこに入るんだったら自分でなくてもいいと思いますから。どうぞほかの人にやっていただいてくださいと。
私自身はしがらみのない、是々非々の政党でやっていきたいですね。ただ、しがらみを全否定しているわけではありませんよ。さっきの2世、3世もすべて否定するつもりはありません。そういう人たちも必要だと思いますが、そこに偏ってしまうのがよくないと思っています。
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