中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が3月5日、北京の人民大会堂で開幕した。例年より長い16日間の会期中に政府人事を決めるほか、憲法改正案も採択する見通し。注目は2期10年までとしてきた国家主席の任期規定を撤廃する憲法改正だ。
独裁者、毛沢東氏による文化大革命の反省に立ち、鄧小平氏が設けたのが任期規定だ。68歳を超えたら幹部は退任するという慣習や、国家主席の任期が切れる5年前に次期最高指導者を明示する仕組みも取り入れ、独裁者の暴走を防いできた。
そうした「知恵」をないがしろにするかのような今回の任期規定の撤廃。全人代では習近平氏の盟友であり、反腐敗運動の陣頭指揮をとった王岐山氏も「定年」の慣習を破って国家副主席などの要職に就くとの見方がある。
今回の全人代で習氏の「終身主席」への道を開いた後、中国はどうなっていくのか。日本はそんな中国とどう向き合うべきか。中国の政治・経済動向に詳しい、亜細亜大学アジア研究所の遊川和郎教授に聞いた。


亜細亜大学アジア研究所教授
東京外国語大学中国語学科卒、1981年9月から83年3月まで上海復旦大学留学。91年10月から94年3月まで、外務省専門調査員として在香港日本国総領事部調査部に所属。改革開放の先進地であった中国南部の経済発展の動向や、香港財閥系企業と中国企業のかかわりなどを研究。日興リサーチセンター上海駐在員事務所長、北京の在中国日本国大使館経済部専門調査委員、北海道大学准教授、同大学大学院教授などを経て現職。著書に「中国を知る」(日本経済新聞出版社)、「香港−返還20年の相克−」(同)など
今年の全国人民代表大会では国家主席の任期規定の撤廃が正式に決まる予定です。
遊川和郎教授(以下、遊川):習近平氏による「終身独裁」を許していいのか、というのが今の大方の見方でしょう。それは確かに良いことではない。でも、そうせざるを得ない現状も中国にはあるのです。
長期政権にならざるをえない理由があると。
遊川:2012年秋に中国共産党トップである総書記に就き、翌年春の全人代で国家主席に選出された習氏は反腐敗運動を強力に進め、権力基盤を一気に固めてきました。政敵を次々に撃ち落とす、過酷な政治闘争をやってきた以上、もう権力を手放すことは絶対にできません。退任した後の韓国の大統領を見ても分かるように、習氏も平和な引退生活なんてできません。生きるか死ぬかの権力闘争です。おそらく、習氏もそれを覚悟の上で中国の最高指導者になったんだと思います。もう後戻りはできません。
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