人類が月面に到達して約半世紀が経過し、再度挑戦する機運が世界中で高まっている。2017年12月にトランプ米大統領が米航空宇宙局(NASA)に月への有人探査を指示する文書に署名。日本政府もそれに呼応して宇宙基本計画の工程表を改訂し、米国の計画に参加する方針を決めた。一つの狙いは月面に基地を構築し、火星探査への足がかりにすることだ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)で技術開発に携わる宇宙探査イノベーションハブの川崎一義・副ハブ長に話を聞いた。

(聞き手は小笠原 啓)

川崎 一義(かわさき・かずよし)氏
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙探査イノベーションハブ 副ハブ長
九州大学工学研究科応用力学専攻を修了し、1987年に宇宙航空研究開発機構(JAXA、旧NASDA)に入社。有人宇宙探査、月惑星探査プロジェクトなどを経て、2015年4月より現職。
(写真:陶山 勉、以下同)

2017年から急に月面探査の機運が高まっています。残念ながら頓挫しましたが、民間企業による月面探査コンテストも話題を呼びました。なぜ多くの国や機関が再び月を目指し始めたのでしょうか。

川崎:もともとは、世界各国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)の「次」をどうするかというのが発端でした。(注:2024年が運用期限になっている)。一時は(リーマンショックなどの)経済の問題があって下火になりましたが、この2~3年、米国政府内で月を目指す構想が強く推進されています。

 我々のような宇宙関係者からすれば、低軌道衛星をやった後に月を目指し、さらに火星へと足を伸ばすというのは自然な流れです。(月を目指すという)トランプ米大統領の発言は、極めて大きな意味を持っています。

日本政府もトランプ政権に呼応し、月を目指す方針を鮮明にしました。米国は50年近く前に宇宙飛行士を月面に送り込みましたが、日本にとっては大きなチャレンジです。

川崎:宇宙開発ではこれまで、「スピンオフ」という言い方がよくされていました。コンピューターなどの技術は宇宙開発の過程で磨かれ、社会に貢献してきました。一方で、ロケットを打ち上げて衛星を整備してとなると、10年や20年はあっという間に過ぎてしまいます。これでは企業が宇宙産業になかなか参加してくれません。日本の企業や大学には、宇宙で使える最先端の技術が多く存在しますが、それを生かし切れていないのが実情です。