堅調な海外展開の半面、この4年は想定外の事態も起きました。英国が国民投票で決めたEU(欧州連合)離脱もその一つだと思います。英国にグローバル本社機能を置く鉄道事業にとって、影響は出ていますか?

ドーマー:これは繰り返し質問されることですが、今のところ何も変化はないというのが、正直な答えなのです。本当に、国民投票後から、何も変わっていません。交渉の行方をただただ見守っているというのが実情です。

 日立は英国政府とは信頼関係が築けていると信じています。EU離脱後も英国に拠点を置く企業がEUの単一市場にアクセスできる環境を維持するように求めていくしかありません。あとは、それを信じるしかありません。

「英EU離脱決定」は今もショック

EUとの離脱交渉期限は、公式には19年3月末とされています。

ドーマー:期限後も、数年の移行期間を設定することも議論されていますから、それが実施されれば、環境は当面変わらないでしょう。しかし、個人的には、英国がなぜこのような決断をしたのか、今もショックでなりません。

 EUを離脱しても、何も得るものはないということは分かっているのに。このオフィスにも、EU出身の人々が多く働いていますが、皆が不安を抱いています。今は、彼らを安心させることが第一だと思っています。今後の展開には色々な予測が飛び交っていますが、唯一つ言えるのは、誰も将来のことは分からないということです。

ドーマーCEOにとっても、想定外の事態でしたか。

ドーマー:可能性は低いと見ていましたが、想定はしていました。CEOの役割は、その時間の7割を未来の姿を描くために使うべきだと考えています。自分の組織が、今後どのような成長をしていくのか。そのための組織のあり方、製品のポートフォリオ、明日の顧客が何を求めるのか。そういう視野で経営をしていると、マーケットの状況がかわっても、柔軟に対応できることが少なくありません。

 では、未来の鉄道事業はどうなっていくのか。先程も述べた通り、鉄道市場は大きくソリューションの方向へ進んでいます。もちろん、新興国など今もハードウエアが大切なところもありますが、全体の傾向は車両から運用ソフトまでを総合的に提案するソリューションに向かっています。デジタル技術との融合もさらに深化していきます。

 そして、規模の拡大もさらに必要になるでしょう。これまでのように、単純に工場や組織を増やすだけではなく、それをいかに連携して管理していくかという点も大切です。日立は、規模や財務的に大きな契約を受注できる力はあります。だからこそ、どこと組んで、どこを自前でやるか案件ごとに緻密なポートフォリオが必要になります。こうした長期的な視野に立ちながら、拠点や規模拡大のための事業展開を進めています。

想定していたかどうかは分かりませんが、鉄道事業で競合する独シーメンスと仏アルストムが昨年、鉄道事業を統合しました。鉄道業界の再編機運は高まっているようにも見えます。

ドーマー:間違いなく鉄道業界の再編に刺激を与えました。日立にとっても、これから様々なチャレンジが待ち受けているのは間違いないと思います。ただ、シーメンスとアルストムの統合も、決して簡単ではないと思います。巨大な組織を統合してシナジーを出すまでの作業は、経験的に言っても相当の時間を必要とします。簡単な作業ではありません。

 我々は買収されるよりも、する側として業界に存在し続けていきます。ですから、M&Aに限らず、事業提携を含め、新しいビジネスの機会に沿った展開を常に考えています。M&Aで今すぐに案件があるわけではありませが、議論は継続的に実施しています。

 繰り返しになりますが、再編でもカギを握るのはスピードです。シーメンスとアルストムが統合作業に時間を取られている間に、先行して様々なソリューションを開発していきます。20年先の競争を考えた時、やるべきことはたくさんあります。まだまだスピードは落とせません。