日本事業が圧倒的に強かった組織を、どのようにグローバル化させたのですか。

ドーマー:最も意識したのは、あらゆる面でスピードを上げることですね。

 これは日立だけでなく、日本企業全体の強みであると言えると思いますが、日本のビジネスはコンセンサス重視で物事を進めます。社内の企画から取引先との商談に至るまで、じっくりと調和を取りながら、慎重にプロジェクトを進めます。

 これが安定した品質や組織の結束力を生み出すことにつながっていることは否定しませんが、グローバル競争の中では、時間がかかり過ぎるという弱点にもなっていました。迅速な意思疎通とリーダーの早い意思決定は、グローバルにビジネスを展開する上では不可欠な要素なのです。

 「何を当たり前のことを」との印象を持つ方も多いでしょう。もちろん、日本国内でこの改革を進めることはさほど難しいことではないと思います。

 例えば、鉄道車両のデザインについて、マイナーチェンジが必要になった場合を考えてみましょう。日本国内のオフィスと工場であれば、距離も離れていません。電話、あるいは実際に会って相談すれば、ものの数分で打ち合わせは済みます。

 ところが、同じ作業を約5700マイル離れた日本と英国でやろうとすると、簡単にはいきません。9時間の時差もありますから、まず電話会議を設定する打ち合わせから始める必要があります。こんな条件下で、スピード感を出すためにはどうすればいいか。そこを徹底的に考えました。

「難しい英語はあえて禁止」

具体的にはどうしたのですか?

ドーマー:端的に言えば、人を動かしました。コミュニケーションの頻度と密度を高めることが、結果的に意思決定のスピードを上げるために最も効果があると判断したからです。日本の製造拠点である笠戸工場(山口県下松市)、英国、そしてイタリアの間で、動かせる人間は可能な限り、交流させることにしました。

 時差や物理的な距離があると、細かすぎる内容の打ち合わせは省くようになりますが、実は細かい打ち合わせこそが後の障害を防ぐ可能性があります。そうした詳細な内容が、交流することで一気に議論の俎上に載るようになりました。

 もちろん、全員が移動することは難しいですから、そうした社員同士は、ビデオ会議に参加してもらうことにしました。さらに、私を含む幹部と現場の交流にも多くの時間を割いています。各国の現場社員と定期的に、50~80人を集めて、意見交換の場を設けています。仕事に関することでも、日常的な疑問でも何でも質問できます。日立はコミュニケーションに重きを置く会社であるということが、こうした場を通して伝わるようになりました。

 コミュニケーションで言えば、共通言語である英語にはちょっとした運用の工夫をしました。それは、「簡単な英語以外はなるべく使わない」というルールです。ネイティブで英語を話す人たちは、どうしても無意識に会話のテンポが早くなりがちです。しかし、これが日本人を始めとした非ネイティブからすると、英語が早すぎてついていけない場合があります。

 その場で、「分からない、聞き取りにくい」と言えば済む話ですが、電話会議だったり、重要な会議だったりすると、なかなか打ち明けられません。結果的に、理解不十分のまま会議が終わり、後で苦労しているとの声が、現場からあがってきました。

 会議では、できるだけ難しい英語表現は使わないようにしようと決めました。さらに、会議が終了した後は、互いに何に同意したのかについて、確認する手続きも導入しました。ささいなことですが、この結果、会議の生産性は飛躍的に高まりました。

 もちろん、議論を深めるためには、互いに共通の前提が必要です。そのために、あらゆる指標を統一しました。グローバル人事評価、コスト指標、エンジニアリングやパフォーマンス指標など、各国や組織ごとに異なっていた「ものさし」を同じにしました。

 日本と英国、そしてイタリアなど、国によって文化は異なりますし、仕事の進め方も微妙な違いがあります。そこは無理に統一せず、日立製作所のバリューを基準にしながら、互いの文化を尊重して融合を進めました。