坪井:効くか効かないか分からない曖昧な世界と思われがちな鍼灸ですが、じわじわと効くものなので変化が分かりづらいだけだと思っています。鍼とお灸、一番手早くできて心地よく、しかも自分でできるのはお灸です。数年前に「お灸女子」などという言葉を聞いたことがありますが、お灸男子でもいいのです。お風呂が好きな方も多いように、暖かさと言うのはリラックスにつながり、副交感神経を優位にする働きが高いように感じます。

自律神経ではなく、腰や肩が痛いなど体の慢性的なこり・痛みで効率が高まらず、残業してしまう社員もいると思いますが、そういう人にも鍼灸は効きますか。

坪井:自律神経の調整に比べ即効性があり、鍼灸の効果をより実感しやすいのが腰痛や肩こり、筋肉疲労などです。現代の会社員は仕事ではパソコン、プライベートではスマートフォンなどにより目や首の回りを非常に酷使しますし、疲労により「腎」の領域である腰を弱めがちです。じっくりとお灸をして温めるのもいいし、鍼もガツンと効きます。血行を促進し血液内の発痛物質を流すのです。

なるほど。ただ、それだけでは、鍼灸で残業社員を撲滅するのは難しい気がします。

坪井:なぜです?

「家に帰りたくない社員」にも鍼灸が効く可能性

「残業の多い社員」=「効率的に働きたくても体が言うことをきかない人」ではないからです。中には、健康なのに「家に自分の居場所がない」という理由で、無駄な残業をしている人も少なくありません(スペシャルリポート「残業が減らないのは家に帰りたくないから」(参照)。そうした人たちには鍼灸は通用しないのでは?

坪井:いえ、大丈夫です。鍼灸は、「仕事が終わらないのではなく、家に帰りたくないから残業している」という社員にも、効果をもたらす可能性があります。

本当ですか。

坪井:家に帰りたくない理由には、「一人だと寂しい」とか「家庭に何かしらの問題がある」など様々なケースが考えられますが、私は「そもそも早く帰っても何をすればいいのか分からない人」が増えているのではないかと思います。ここにも自律神経が関係しているというのが私の考えです。仕事が忙しく、交感神経から副交感神経への切り替えが上手にできず、その結果、「仕事以外に何をすればいいか思い浮かばない」という状況に陥っている可能性です。つまり、リラックスできづらい体になってしまっているのです。

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