「包括」と「個別」のせめぎ合い

理想的な対話の「形」をどう生かすべきでしょうか。

細川:現在は先だっての首脳会談で方向性を共有した段階に過ぎません。経済対話のアジェンダは3分野(①財政・金融などマクロ経済政策の連携、②インフラ、エネルギー、サイバー、宇宙での協力、③二国間の貿易枠組みの協議)とされていますが、これは主に日本政府が持ち出し、説明しているものです。米国側のキープレーヤーが揃っていないために、中身まできっちりすり合わせしたものではありません。

 今後、米国の通商チームが出来あがってきた段階で、具体的なボールが投げられてくるはずです。トランプ政権の目的は「対話」ではありません。トランプ氏の発言にあるように、「交渉」です。具体的な成果、個別の利益を追求することが目的であり、USTR(米通商代表部)はその個別利益追求の代弁者になります。

 日本としては、利害対立しやすい個別テーマではなく、対話をなるべく「包括的」なものにしていきたい。個別テーマで争うことよりも、日米の経済全体を俯瞰する目を持つことが、双方のメリットになると理解してもらえるよう、早い段階で積極的に働きかけていく必要があります。

どのような分野でボールが飛んでくると予想されるでしょうか。

細川:やはり先ほどの3テーマのうち、③の二国間の貿易枠組みでしょう。TPPからの撤退を決めた米国が、TPP交渉で譲歩した内容を再び持ち出してくる可能性が高いからです。

 特にその可能性が濃厚なのが、コメ、牛肉、豚肉などの農畜産物です。共和党にとって、農業・畜産業界は大切な票田です。2018年の中間選挙を考えれば、TPP離脱による機会損失を取り戻そうという動きが出てくるのは当然でしょう。

 さらに過去の日本への要求のパターンから考えれば、規制緩和でも動きがあるかもしれません。例えば、新たにシェアリングエコノミーなどにも関心があるとの声も聞こえてきます。

シェアリングエコノミーとは、意外です。

細川:カリフォルニアを中心としたIT、ソフトウエア関連の主な企業はトランプ氏の移民政策に反対する姿勢を見せています。だからこそシェアリングエコノミーでの規制緩和はIT産業を取り込むことにつながるということかもしれません。規制緩和に慎重な姿勢に対して、日本の世論の中にも批判的な意見が存在することもあるのでしょう。

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