中国の海外進出が加速している。中国経済の減速が不安視される中、海外に成長の活路を求める企業が増えているためだ。インフラ輸出にも力を入れており、高速鉄道では日本の新幹線と競合することも多い。中国政府はシルクロード周辺国との関係を強化する「一帯一路」といった戦略を打ち出し、新たな経済圏を作り出そうとしている。
中国が海外を目指すに当たってカギになるのが、中国から海外へ移住した人たち、すなわち華僑の存在だ。そのネットワークの広さと強さについては以前から知られていたが、一帯一路などの戦略によってより重要度が増していると言える。その華僑の発祥と言われるのが台湾の対岸にある福建省だ。同省にあるアモイ大学の庄国土教授に世界に広がる華僑ネットワークについて話を聞いた。
まずおうかがいしたいのは華僑の規模です。世界には華僑が何人ぐらいいて、どれくらいの経済規模になるのでしょうか。
庄:私が2008年に発表した数字ですと、華僑の方の人数は世界で4200万人近くでした。国務院が公表している最近の数字だと6000万人となっていますが、私の研究によると5600万人ほどだと考えられます。

アモイ大学特別教授、マレーシア研究所所長、前南洋研究院院長。アジア太平洋の国際関係や華僑研究の第一人者。1986年以降、オランダやイタリア、米国、マレーシアなどの大学や研究機関で研究員や客員教授を務める。京都大学や立命館大学といった日本の大学との関係も深い。
国務院は世界の華僑の資産規模や各国ごと、もしくは華僑系の企業ごとの状況などをまとめています。我々のグループが研究を担当しましたが、国務院はこれを公開していません。2009年時点で全世界の華僑の資産総額は約1兆ドル(約112兆円)です。そのうち東南アジアで8000億ドルを占めます。現在は当然、この金額を大きく超えているはずです。
最近、中国企業の海外進出が目立ちます。中国企業の海外進出を促す「走出去」や「一帯一路」などの政策もあり、海外で活躍している華僑の存在はさらに重要になると思うのですが。
庄:一帯一路は国を挙げた戦略です。過去1年間、私は一帯一路に関して200回以上、講演しました。一帯一路の研究に割いた時間が最も多いかもしれません。
国家の最も重要な戦略の1つですから、各都市がそれぞれ一帯一路に基づいた発展計画を推し進めようとしています。その中でも中核となる地域が2つあります。1つは「一帯」つまりシルクロード経済ベルトの中心となる新疆ウイグル自治区、もう1つが「一路」つまり「21世紀の海のシルクロード」の中心となるここ福建省です。
中国沿海の山東省や江蘇省、浙江省、広東省、広西チワン族自治区のように、福建省よりも大きな計画を策定している地域もあります。経済の実力や発展状況で言えば、沿海部の浙江省や江蘇省、広東省に及びません。総合的な実力で言えば、全国で11位か12位といったところでしょうか。しかし、中央政府は福建省を選びました。なぜでしょうか。それは福建省が特別な条件を有しているからです。
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