日本ではそういう視点でアートを見る企業や人はいませんか。

猪子:日本の例えば広告クリエイターはニューヨークの広告産業を見ている。日本のファッションはニューヨークとかパリのファッションを見ているよね。でも世界のトップはアートを見ているんだよね。

 別にトッププレーヤーにならなくてもいいなら、日本のファッションはパリとかニューヨークを見れば十分で、別にアートを見る必要はない。彼らをフォローしておけばいいから。でも、トップになりたいのであればアートは必要。美の基準が変わっていくことがすごく重要なことだから。

境界をめぐる戦いが始まる

チームラボの表現する「境界のない世界」が広がる一方で、現実の世界では、英国や米国を始めとして「国境の壁」が復活する機運も高まっています。

猪子:グローバルな体験をしてよかったという経験があるかどうかの違いが、大きな差を生んでいると思う。グローバリズムというと何かすごくビジネス的な言葉になるけど、海外に1年間住んで視野が広がってよかったとか、何か自分の価値を評価されたとか、ささいなことまで含めて体験したことがある人は、境界がないことがいいことだと知っている。

 けれど、老人とか田舎の人とかは、境界をつくってほしい、つくった方がいい、と思っているでしょう。多くは境界がない世界を体験してないからだと思う。これまではそんなに強く守らなくても境界というのは明確にあった。しかし、放っておくと今は境界がなくなっていく。だから、より強い意志で境界をつくろうという人々が出てきている。

 だから、これはすごい戦いになるんじゃないの。おぞましい戦いになると思う。

アートはこうした世界を変えることはできますか?

猪子:境界がない世界というのは素敵だという体験を、できるだけ多くの人にしてもらいたいなと思っている。

 境界のない世界が論理的に良いと訴えるよりも、そういう世界を体験して、それはすごく気持ちいいと感じることがいいなと思っている。僕らを応援してくれて、展覧会を世界の色々な場所で展開できたら、少しずつ変わっていくかなと思っているよ。

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