そうした「美の基準」を変えるかもしれないアートに、海外の優良なメディアは常に注目していると。

猪子:直感的に知っているのか、歴史的に知っているのか分からない。けれど、この1年ちょっとで、フィナンシャル・タイムズも、ガーディアンも、ル・モンドも、ウォール・ストリート・ジャーナルも、CNNも、BBCもみんな面白がってチームラボを何度も取り上げてくれる。

我々は、アートコレクティブ

具体的に、デジタルアートはどのように「美の基準」を変える可能性があるのですか。先ほど述べていた「鑑賞者自身が作品に影響を与える」というのはとても分かりやすい変化ですが。他にもあるのですか?

猪子:例えば、物質的じゃないもの。物質的には実在しないものだからといって、価値が低いわけではない、むしろかっこいいんだというのも一つだよね。物理的に実在しなくても高級であるというか。物質からのある種の解放。境界がないことはすごく気持ちいい。展覧会で表現しているのもこのことだよね。

 アートというのは個人のみから生まれるものではない、という主張もそうかもしれない。チームラボは、集団的創造によるアートというものの考えをずっと続けてきたんだよね。だから、海外では「アートコレクティブ(アート集団)です」と言っている。

 普通、有名な作品は、誰か一人の作品が多いよね。ピカソとかゴッホとか。作品の作者は、基本的に一人。だけど、デジタルアートは集団的創造にとても向いている。

 今回展示した「花と人、Transcending Boundaries - A Whole Year per Hour」で使っている花は、昔から使っている花のコンポーネントを、独立してどんどんアップデートしている。

 デジタルアートの制作は、基本はいくつものコンポーネント(部品)の組み合わせ。個々の部品をバージョンアップして、別の作品にも使っている。だから、僕らの作品を見て、制作にどれくらいの時間がかかったのですかと聞かれると困っちゃう。「花」のコンポーネント自体は昔から延々と制作しているものだから。

 ちなみに、僕がインタビューを受けているのも、便宜的に僕がチームラボの代表だからというだけ。制作物はいつも集団、チームでやる。展示にいくときも、10人くらいのサーカス団みたいな感じで。

 これからの時代は、個人の能力の差がより組織に影響を与えるんだけれども、アウトプットは集団の創造になっていくと思っているよ。

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