「国境税調整」を導入するための“ロジック”

確かに、これでは海外移転にインセンティブを与えているようなものですね。

:この状況を修正するためには、米国もVATを導入すればいいのですが、低所得者の負担が重いという見方があるせいなのか、米国はVATに対するアレルギーがあり、VATを入れたがりません。そのため、法人税にVATの概念を入れようとした結果、国境税調整というアイデアが出てきた。

ただ、国境税調整は輸出補助金と輸入関税という側面があるので、WTO(世界貿易機関)ルールに抵触するという指摘があります。

:その問題を回避する上では、「設備投資の一括償却」、すなわちキャッシュフローベースという共和党案のもう一つのキーワードがポイントになります。日本やドイツのようにVATを導入している国の場合、企業が設備投資をすると、機械設備を購入した時にVATを払い、そのVATはその後の売り上げに課されるVATと相殺される効果を持ちます。もちろん、法人税の世界では設備ごとに恣意的な償却年数が定められており、それに従って企業は償却しています。ただVATの世界だけで見れば、購入したときに一括償却しているということになります。

 言い換えると、「他国が導入しているVATと同じだから」という理屈で国境税調整を導入するためには、法人税における設備投資の一括償却を認めないとつじつまが合わないということです。WTOは間接税であれば輸出入の税調整はOKだと言っている。米国の国境税調整は法人税ですが、「法人税」という言葉を使っているだけで設備投資の一括償却を認めている。米国内の人件費を費用化できる点を除けば実態としては間接税と変わらない。ゆえに、WTOルール違反ではないという理屈です。

 はっきり言って詭弁ですが、少なくとも下院共和党は国境税調整を導入するロジックとして以上のようなことを考えています。WTOの紛争解決に何年もの時間がかかることを考えれば、まず導入してルール違反と認定されたときに対応を考えるというのも想定内でしょう。

「国境税調整」をメキシコ国境の壁の原資に?

トランプ大統領は「複雑すぎる」と難色を示していました。

:私は国境税調整が導入される確率はそれなりに高いと思っています。なぜならば、国境税調整を導入しなければ、法人税減税のための財源が確保できないからです。国境税調整は貿易赤字に対する課税という意味合いもあり、巨額の貿易赤字を抱える米国が国境税調整から得る税収は今後10年間で1兆ドル、法人税率に置き換えれば8%に上ると言われています。この原資がなければ、共和党のいう20%の法人税減税など夢のまた夢でしょう。

トランプ大統領は国境税調整を壁の原資にするという考えもあるようですが…。

:そのあたりは共和党との調整でしょうが、共和党が法人税減税と財政中立を両立を目指している以上、国境税調整を導入しなければ実現できません。もちろん、メキシコとの間でサプライチェーンを構築している自動車業界や、輸入品を数多く扱う小売り業界、エネルギーの輸入に関わる石油業界などは反対するでしょう。ただ、国境税調整を導入してもドル高に振れて為替で調整されるという指摘もあります。極端なドル高になると海外資産のドル換算額が目減りしてしまいますし、トランプ政権はドル安に誘導したいでしょうから、この点は国境税調整導入の際のひとつのチャレンジとなる。

 現時点の税制改正案はブループリントであり、詳細は今後、明らかになっていくと思います。ただライアン議長は8月までに法案化したいと語っていますので、そんなに遠い話ではありません。トランプ大統領はいろいろと物議を醸す大統領令を出していますが、税制改革の機運がこれほどまでに高まっている時はありませんので、是非実現してほしいと思います。

■変更履歴
記事中の「そういえば、米国には消費税がありませんね」という質問の後に、一部の州に導入されている「売上税」についての注釈を追加しました。[2017/2/11 11:00]