「ワールドワイド課税」にともなう多くの弊害

世界一高い法人税とワールドワイド課税の組み合わせは最悪ですね。

:その通りです。ワールドワイド課税が適用されているため、米国に拠点を置く多国籍企業にはヘッドクオーターを海外に移すインセンティブが強く働きます。そもそもの法人税が高く、世界中の子会社、関連会社で挙げた利益に最終的に40%の税率が適用されるわけですから。また、法人税率の低い国に本社を移せば、グループ間の貸し付けなど様々なテクニックを活用したアーニング・ストリッピング(支払利息控除を利用して米国内の利益を圧縮すること)も可能になる。製薬業界を中心に、M&Aを利用したインバージョンが広がりました。それも、高い法人税率とワールドワイド課税という組み合わせがあるからです。

 今回の共和党案では、法人税率の引き下げとともにワールドワイド課税の見直しに言及しています。オバマ政権はインバージョンを防ぐため新たに多くの規制を導入しましたが、グローバル企業がインバージョンやアーニング・ストリッピングを活用するのは米国の競争条件が各国と比べて著しく劣るため。その根本的な問題を解決せずに規制を強化しても、別の抜け穴を見つけようとするだけでしょう。トランプ大統領は米国第一主義を唱えていますが、税制に限って言えば、国際競争を阻害している要因を取り除くという性質のもので、世界標準に米国の競争環境を戻すという感覚だと思います。

共和党がかねてから温めてきた「国境税調整」

共和党案には「メキシコ国境の壁」の原資とも言われる、国境税調整も含まれています。

:今回、話題になっている国境税調整は税制改革における大きな柱の一つです。簡単に言うと、米企業が輸出する場合は輸出売り上げを課税ベースから控除する一方で、原材料などを輸入した場合は輸入仕入高を経費として認めないという考え方です。法人税率が20%だとした場合、輸出高の20%を補助金として受け取り、輸入高の20%を関税として支払うのと似たような効果が得られるため、米国内に生産拠点を戻すインセンティブが働きます。

 よくトランプ大統領が主張する国境税と混同されますが、国境税は輸入時に関税を課すのに対し、国境税調整の方は法人税の計算時に輸出と輸入にかかわる金額を年に一回調整して申告するイメージです。相手国がどこでも、また非関連者からの調達でも関係ありません。この国境税調整はトランプ大統領が突然、思いついたものではなく、ライアン下院議長をはじめとした下院共和党が従来から温めていたアイデアで、下院案は大統領選挙より前の2016年の夏には発表されています。実際、かなりよく考えられています。

 なぜこういうアイデアが出てきたのかというと、米国には消費税や付加価値税(VAT)などの間接税がないという事情があります。

米国から輸出する製品には、二重に税金がかかる

そういえば、米国には消費税がありませんね。

(注)米国には州により売上税が導入されているところがあるが、あくまでも州の財源で、連邦にはない。また、州の売上税は基本的に物品小売りの販売だけに適用され、サプライチェーンの各ステップでの課税や、サービスなどの無形取引に対する課税はない。その意味で消費税やVATを国の歳入としている状況とは異なるというのが秦氏の見解。

:日本を思い浮かべていただければと思いますが、日本で輸入品を購入する場合、消費者は消費税を払います。同様に日本製品を輸出した場合、輸出先に消費税に準じるものがあれば相手国で課税されます。その際、日本で輸出品に課税されることはなく、サプライチェーンの過程で支払った消費税は還付されます。

 それに対して、間接税がなく法人税ですべて対応している米国の場合、輸入コストは経費として課税ベースから控除できますが、輸出売り上げに対しては法人税がかかります。また、輸出の際はVATでの還付のような仕組みがないため、法人税がそのまま課されます。例えば、日本で製造した自動車を2万ドルで輸入して3万ドルで売れば、輸入仕入高の2万ドルは経費に算入できます。他方、米国で製造した自動車を3万ドルで輸出すると、3万ドルは必要経費を引いた後に課税所得となります。法人税の世界では当然の扱いですが、消費税を大きな財源とする他国と比べて方向が逆なんですね。

 結果として何が起きるか。他国で作った製品を米国に輸出する場合、輸出に対して出荷地では税金がかからず、米国では輸入企業が仕入れコストを経費算入できて、双方で米国への輸出は競争力が出る。他方、米国で作った製品を海外に輸出する場合、米国で法人税がかかり、輸出先でもVATや消費税がかかる。「アメリカは自ら好んで自分たちを不利にしている」と下院共和党はブループリントで述べていますが、まさにその通りで、米国の法人税は他国との比較でいうと、自国の輸出品に制裁を課している一方、輸入を奨励していることになります。トランプ大統領の米国第一主義を持ち出すまでもなく、こういった不均衡を是正しようと思うのは当然です。