ドナルド・トランプ大統領が就任して2週間あまりが経過した。就任後、矢継ぎ早に出された大統領令を見ると、選挙公約を忠実に実行しようとする姿勢が見て取れる。ホワイトハウスの椅子に座れば現実路線に転換するだろうという世界の淡い期待は霧消しつつある。
もっとも、ビジネスの世界に限ってみれば悪いことばかりでもないという声もある。インフラ投資や規制緩和と並んで市場が熱い視線を送っている税制改革、その中でも法人税の抜本改革について、話題の国境税調整をからめつつ、税制の専門家に聞いた。
(聞き手は、ニューヨーク支局、篠原 匡)
大統領令はオバマ政権も乱発
トランプ大統領が就任して2週間あまりが経ちました。メキシコ国境の壁建設や一部のイスラム教国の市民の入国を制限するなど、米国のみならず世界中に混乱をまき散らしています。秦さんは税法がご専門ですが、新政権をどう感じていますか?

アーンスト・アンド・ヤング・パートナー
専門は法人税、パススルー課税、クロスボーダー取引、企業再編、外国人を対象とした米個人所得税、タックス・プロビジョンなど。25年以上にわたり日本企業の海外事業に対して国際税務コンサルティングを提供している。弁護士(米カリフォルニア州)と公認会計士(カリフォルニア州、ニューヨーク州)の資格を持つ。
秦正彦・アーンスト・アンド・ヤング・パートナー(以下、秦):トランプ大統領は長年、ワンマン経営者として企業を差配してきただけあって、中身はともかく、実際の行動は極めて早いと思います。ニューヨーカーは何事も動きが早く、他人の目など全く気にしないところがありますが、トランプ大統領はまさにニューヨーカーの典型といった印象です。
もっとも、大統領令はオバマ政権を含む過去の大統領もそれなりに乱発しています。とりわけオバマ政権は共和党が支配する議会と考えの相違があまりに大きく、議会の協力がほとんど得られませんでしたので、大統領令を積極的に活用してきました。大統領令や財務省など行政機関による規則を行使する以外に自身の政策を実行する手段がなかったのでしょう。ただ、それにしても議会の権限を侵食しているのではないかと思うこともしばしばありました。大統領令や規則の限界にチャレンジしていたと言ってもいいほどに。

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