ここ数年、企業経営者や機関投資家、コーポレート・ガバナンスの関係者が注目する動きがある。株主総会での機関投資家の行動に大きな影響を及ぼす議決権行使助言会社の方針の追加や変更だ。その最大手、米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は2015年、過去5年のROE(自己資本利益率)の平均値が5%を下回る企業のトップ選任案に反対する方針を打ち出し、大きな話題となった。今年はどうか。この2月から適応される2016年の方針の変更点やその狙いなどを、ISSの石田猛行・エグゼクティブ・ディレクターに聞いた。
(聞き手は熊野 信一郎)
昨年、ISSのポリシーにいわゆる「ROE5%ルール」が追加され、話題になりました。2016年の助言方針は何がポイントでしょうか。

ISSエグゼクティブ・ディレクター。1999年からワシントンDCのInvestor Responsibility Research Center(IRRC)に勤務し、主に日本企業の株主総会の議案分析やコーポレート・ガバナンスの調査を担当。2005年のISSによるIRRCの買収に伴い、同年12月からISS Japanに勤務。金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」メンバーや経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」委員、経済産業省「株主総会のあり方検討分科会」の委員を務める。ジョンズホプキンズ大学大学院にて、国際関係論修士号を取得。
石田:1つが、社外取締役に関する要件の追加です。今年は、社外取締役が2人以上いない企業のトップ選任案に反対することとしました。これまでは「最低1人」でした。
ピュアな理想論を振りかざすだけでは企業は納得してくれません。新しいルールを作るにしても、世の中の流れを見ることが大切です。
我々の調査では、昨年6月時点で上場企業の55%に2人以上の社外取締役がいました。「コーポレート・ガバナンス・コード」も発表され、社外取締役の数は増える傾向にあります。ですから2人以上のルールにしても、反対の対象となるのは全体の半分以下で、今後も減り続けるでしょう。
以前から、「1人よりは2人以上のほうが好ましい」と発言してきたこともあり、今回の改定には企業側の違和感もそれほどないのではないでしょうか。去年のROEのルールに比べると、機関投資家などの意見はほとんどありませんでした。
社外取締役の独立性についてはどのようなスタンスですか。
石田:独立性は概念としては重要ですが、定義するのが難しい側面もあります。「正直」を定義することが難しいのと同じです。あまり厳しく独立性を求めると、企業側がネガティブスクリーンだけで人選してしまいがちになります。
最近では社外取締役について、「インディペンデント(Independent)」ではなく「インディファレント(Indifferent)」と揶揄する表現が使われています。独立しているのではなく、その企業に関心もないような人、という意味です。
日本でもそうした傾向がでていると感じていますか
石田:かっちりとした統計があるわけではないですが、社外取締役の数が増える中、弁護士や会計士が就任するケースが目立ちます。弁護士や会計士が良くないというわけではありません。ただ極端なことを言えば、取締役の過半数が弁護士だったらどうでしょうか。コンプライアンスの観点ではいいかもしれませんが、ビジネスの観点ではバランスが悪い。独立性についての一定のルールはありますが、それを厳しく求めるよりも、企業の自主性に委ねたほうがいいと考えています。
Powered by リゾーム?