
脳を使い続けて、思考の素早さを失わず若さを維持できれば、年を取っても多くの仕事をやり遂げることができるでしょう。メンタルトレーニングを含めた日々の鍛練を怠れば、確かにどんどんできることは減っていきますし、脳の活動や精神面での許容度は衰えていきます。しかし、鍛練を重ねることによってこれは食い止められます。
記憶する訓練をし続けるのは重要です。詩の暗記がお勧めですね。俳優や舞台の役者が、仕事を続けているうちにアルツハイマーが治っていったという話もあります。記憶力を鍛えることで、記憶障害などの予防につながるでしょう。詩や文学作品の全文、名前や数字、数独のようなパズルも有効でしょうね。
IEビジネススクールのある60代の教授は、過去40年に教えた学生から現在の学生まで、全部覚え続けているそうです。どうやっているのか知りたいものですが、それも恐らくはトレーニングのたまものですね。
何でも機械に頼りすぎる若者の将来は…
若者にとっては、さらに先が長い話ですね。
イニゲス:現代の若者の課題は、あらゆるメンタルな課題を含む問題解決に、安易に機械を使いすぎることです。グーグルで検索して解決し、コンピュータで計算問題を解いてしまう。すると、脳の活動が平板になってしまいます。
自分で手を動かしてメモを取ったり、自分で解決策を考え抜いたり、ということが大事ということですね。
イニゲス:そうです。もちろん時間を稼ぐためにエンジニアが複雑な計算機を使って仕事をしたりするのはいいのです。しかし何かを学ぼうとする時は、問題の背後、計算結果の背後にあることを自分で考え抜くこと、問題の意味を考え抜くことがとても重要です。
自ら何かを作りあげる人になりたいなら、機械に頼りすぎず、1つのことに集中する力、1つの課題を掘り下げる力を養う必要があります。ネットで検索ばかりしていると、次から次へと新しい知識をつまみ食いすることが癖になってしまいますし、脳が鍛えられませんからね。
先ほど言った私の書いているリンクトインのコラムは長いコラムですが、「読みにくいので箇条書きにしてほしい」という若者が結構いるのです。つまみ食いをし過ぎると、長い文章が辛くて読めなくなるのですね。しかし長い文章を読むことは、書き手の思考をたどることにもなり、脳を鍛えるうえでも大切です。
同様に、過去の人たちと同じ過ちを繰り返さないために、歴史を学ぶことが大切です。例えば米国のFRB(連邦準備理事会)のベン・バーナンキ前議長は大恐慌の研究の専門家でしたが、過去の金融の失敗の歴史に精通しており、リーマンショック後の世界経済を立て直すうえでは適任だったと思います。
IEビジネススクールのMBAではさらに、美術鑑賞や異文化を学ぶコースを設けて、人について洞察を深める教養の涵養に力を入れています。日本で大学の人文学系の学部を廃止する、という議論があると聞いていますが、心配なことですね。
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