中国の習近平政権とIoT(Internet of Things)の進展が、半導体の業界再編を加速している──。半導体市場を20年以上にわたって分析してきた、IHSグローバルの南川明・調査部ディレクターは指摘する。1兆円規模の合併・買収が相次ぐ中で、日本勢はどうすれば生き残れるのか。話を聞いた。

(聞き手は小笠原 啓)

<b>南川 明 氏</b><br/>IHSグローバル調査部ディレクター<br/>1982年モトローラ入社。ガートナージャパンやIDC Japanの調査部門などを経て、2004年に独立。合併や買収を経て2012年よりIHSグローバル
南川 明 氏
IHSグローバル調査部ディレクター
1982年モトローラ入社。ガートナージャパンやIDC Japanの調査部門などを経て、2004年に独立。合併や買収を経て2012年よりIHSグローバル

半導体業界で大型買収が相次いでいます。2015年6月には、米インテルが米アルテラを167億ドル(約2兆円)で買収。続いて10月に米ウエスタンデジタル(WD)が米サンディスクを190億ドル(約2兆3000億円)で買収すると発表しました。なぜ今、1兆円を超える大型再編が世界各地で起きているのでしょうか。

南川:背景には、大きく2つの理由があります。IoT(Internet of Things)と中国です。順に説明していきましょう。

 半導体市場はこれまで、パソコンやスマートフォンが主役でした。ところがパソコンは既にマイナス成長に陥り、スマホについても成熟が見えてきました。半導体各社が新たな市場として注目しているのが、立ち上がりつつあるIoTなのです。

 インテルがアルテラを買収したのは、IoTビジネスを開拓するうえで製品ポートフォリオの強化が不可欠だったからです。

パソコン用CPUだけでは不十分

 インテルはパソコン用のCPUでは圧倒的ですが、品ぞろえは限られています。ところがIoTでは工場や医療の現場、農業など様々な場所と用途で使われることになります。そうなると、パソコンに適したCPUだけではカバーできなくなる。そこで、「FPGA」という半導体を得意とするアルテラを取り込みました。

 FPGAなら、販売した後にプログラムを書いて設定を変更し、最適な半導体を作り込むことができます。様々な用途で使われる半導体を、一部でも、インテルの代わりに顧客企業に作ってもらえば、パソコンなどに代わる新たな市場を開拓できるという考えです。

 2015年5月に、米アバゴ・テクノロジーが米ブロードコムを370億ドル(約4兆4000億円)で買収すると発表した狙いも、IoTの進展で通信技術が不可欠になると判断したからです。技術と時間をお金で買う、M&Aの動きはさらに続くでしょう。

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