バランスシートの“右下”に強くなれ
経営者の資質がこれまで以上に問われることになるわけですが、世界で勝負できる経営者はどのように育っていくのでしょうか。
伊藤:これまでお話ししてきたとおり、バブル崩壊後の「失われた20年」の原因は、経営者がグローバルスタンタードと向き合って収益性を高める努力を怠ってきたことにあります。しかし、そうした中でも、急速に成長してきた企業はあります。ファーストリテイリングや楽天、ソフトバンク、日本電産などです。
これらの企業を率いる強い経営者は、オーナー経営者ですよね。オーナー経営者の強みは、自らの資本を投下して会社を大きくしてきた経験です。つまり、自分のカネを効率良く生かそうとすれば、自ずと資本生産性を高める経営努力をすることになります。そのため、ROE的な概念を肌感覚で理解している。
そもそも、日本企業は資本主義の世界に身を置いているにもかかわらず、資本生産性を高めることへの意識が低すぎます。日本企業はバランスシートの左側、つまり工場の設備などの生産性を高めることは得意ですが、バランスシートの右側については弱い。かろうじて、バランスシートの右上、ようするに銀行からの借り入れについては意識が向いていても、右下の資本をどのように生かして経営するかについては、あまり意識してこなかった。特に、サラリーマン経営者には、なかなかそうした感覚が身についていません。
しかし、グローバル競争は、いわばバランスシートの右下で勝負することだと言っても過言ではありません。そのためには、将来、経営を担うような人材には、若いうちからそのことを理解できるような修羅場を経験させていく必要があるでしょう。
こうした問題意識から、一橋大学では2015年度から「一橋大学財務リーダーシッププログラム(Hitotsubashi Financial Leadership Program=HFLP)」を立ち上げて、次世代のCEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)の育成に力を注ぎ始めています。

現役のCEOやCFOを対象にしたクラスから、課長クラスを対象にしたものまで、4段階(HFLP A~D)にプログラムを分けてそれぞれ40人程度で授業を行っています。一番上のプログラムAでは、月に1回、朝食後に第一線で活躍する経営者や投資家などを講演に招いて、参加者と財務戦略などについて議論しているほか、合宿もやります。
最近では、中国でもグローバルスタンダードで勝負するための CFOを養成しようという動きが出てきていると聞きます。今こそ、日本の経営者も、資本主義の原理原則に立ち返り、世界共通のモノサシでグローバル競争に勝つためには何をすべきかを徹底的に突き詰めて、戦略に落とし込んでほしいですね。
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