日本企業を低収益にした銀行の罪

「日本企業は従業員を大切にしている。株主の方ばかり向いて従業員を犠牲にしてまで利益を追求する米国企業とは違う」といった発言も聞かれます。

伊藤:もちろん、従業員を含むすべてのステークホルダーとの関係を大切にすることは、誰も否定しません。しかし、多くの日本企業の経営者は、「投資家=短期主義」と決めつけ、投資家と向き合うことを避けてきました。はたして、本当にそれでいいのでしょうか。

 投資家の中には、年金基金をはじめとして長期志向の投資家も少なくありません。経営者が長期的に持続的な成長を目指すのであれば、こうした投資家が経営者に求める内容は、むしろ経営の方向性を決めるうえで参考になるものです。

日本企業も株式会社である以上、株主がいます。株式会社は株主に利益を還元することが目的であるのに、なぜ、日本では低い収益性が許容されてきたのでしょうか。

伊藤:長年にわたって日本企業の収益性が低かった理由の1つには、銀行の存在が大きいでしょう。銀行にとって、高収益企業は可愛げのない存在です。銀行は企業に融資をして金利を稼いでいますが、融資先の収益性が高ければすぐに元本は返済されてしまう。

 銀行にとって一番いいのは、利息を払い続けてくれて、そのうえで少しだけ資金的に余裕があるくらいの企業でしょう。つまり、金利+アルファ程度の収益性があれば良いのです。そのため、メーンバンクは平時においては経営者に対して、より収益性を高めるようなプレッシャーはかけません。むしろ、リスクをとって失敗されることの方が、銀行にとっては困るわけです。

 この銀行によるガバナンスに加えて、社員のポストを維持する仕組みとしての労働組合の存在が大きかった。「社員が大切」「従業員を守る」といった定性的で曖昧な価値観に経営者もとらわれるようになり、グローバル競争から取り残されていきました。

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