自己資本利益率(ROE)8%以上を目指すことを日本企業に提言した「伊藤レポート」。2014年の発表以来、ROEという世界共通のモノサシを軸にした経営は浸透したか。日本経済が長期低迷した「失われた20年」は、日本企業の経営者がグローバル競争で使われる共通の財務指標を取り入れることに背を向けてきた結果だとも言われる。レポートを取りまとめた伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長(一橋大学大学院特任教授)に話を聞いた。

日本企業の収益性は欧米企業と比べて低いと言われています。何が問題なのでしょうか。

伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長・一橋大学大学院特任教授(写真:的野弘路、以下同じ)

伊藤:例えば、自己資本利益率(ROE)で見ると、長い間、日本企業は米国企業に大きく劣ってきました。日本の経営者も、この差は分かっていたことでしょう。しかし、なぜ日本が劣っているのか、その原因の認識が間違っていたのではないでしょうか。

 多くの経営者が誤解していたのが、米国企業はレバレッジを効かせているからROEが高いのだろうという見方です。しかし、ROEの構成要素を売上高利益率、資本回転率、レバレッジの3つに分解すると、レバレッジも資産回転率も、日米の企業の間に大きな差はありません。最大の差は売上高利益率、つまり稼ぐ力にあります。

 日本企業の経営者は、自分たちがグローバル企業と比べて何が劣っているのかを正しく分析して理解しようとせず、ただ、誤解と偏見に基づいて米国流の経営を批判してきました。米国企業のようにレバレッジを効かせたら日本はおかしくなると言ってみたり、収益性が低い理由として漠然と「日本企業は金儲けより大切にしているものがある」と定性的に言い訳してみたり。ようするに、稼ぐ力と向き合ってこなかったのです。