経営にはストーリーが欠かせない

ブライトハウスは、具体的にはどのようなサービスを提供しているのでしょうか。

シップマン:ブライトハウスは約10年前から、米ボストン コンサルティング グループ(BCG)と協業しており、2015年に買収されました。以前のブライトハウスは広告をビジネスにしており、創業者も広告マンでした。その歴史があり、現在のブライトハウスにもフィルムメーカーやカメラマン、ライター、詩人などクリエーターたちを抱えています。その理由は、優れた「パーパス」を表明するには、従業員や消費者の心を動かすストーリーが欠かせないからです。

 BCGは従来からの戦略コンサルティングを提供していますが、成長戦略やM&A戦略などの策定を支援する中で、「パーパス」を経営判断の重要な軸の1つとして活用しています。一方、ブライトハウスは、この「パーパス」を社内外のコミュニケーションやマーケティング、人事・採用、さらには組織改革に落とし込んでいきます。従業員が心から前向きに働けるように、パーパスを組織に組み込んでいくのです。

長期視点のパーパスは、短期的なリターンを求める株主の要望と衝突することはありませんか。

シップマン:「パーパス」が戦略の中に位置づくと、短期主義を跳ね返す力になります。なぜなら、パーパスはトップマネジメントから組織全体まで、行動のベクトルを揃える役割を果たすからです。パーパスは、基本的にトップダウンで組織に浸透させていくものですが、それぞれの現場の活動がパーパスに沿ったものになれば、無味乾燥な戦略や事業計画に命が宿る。そのため、M&Aや構造改革、組織改革、戦略の変更などの成果を、より速く得ることができるようになります。そうなれば、投資家も満足するでしょう。

 冒頭にも話しましたが、「Purpose=パーパス」は「Why(なぜ)」この会社が存在するのかを問うものですから、安易に変えるべきものではなく、安定していなければなりません。一方、「Mission=ミッション」や「Vision=ビジョン」は、事業環境に応じて変えていくものです。パーパスが「Why(なぜ)」を問うものなら、ミッションは「What(何に)」取り組むのか、ビジョンは「Where(どこへ)」中長期的に向かうのかを問うものです。そのように区別して、パーパスを基に個別の戦略や戦術を位置づけることが重要です。

「ミレニアル世代」は「パーパス」を重視しているということですが、どのような企業を選ぶ傾向にありますか。

シップマン:大変興味深いのですが、ミレニアル世代には、より大きな企業を好む傾向が出てきているように思います。少し前までは、より小規模な企業、むしろベンチャー企業を就職先として選ぼうとする傾向がありました。しかし、ミレニアル世代は大企業に回帰しています。

 その理由は、大きな企業ほど、社会的に良いインパクトを地球規模で及ぼせる可能性があるからでしょう。最近、グローバル企業は、気候変動など環境への配慮や人権など社会への配慮など、サステナビリティーの考え方を非常に重視しています。例えば、気候変動対策を例に挙げれば、一般的に企業規模が大きいほど環境負荷は大きいわけですが、逆に言えば、サステナビリティーを「パーパス」に位置づけて環境負荷削減に取り組んでいる企業であれば、その規模を生かして気候変動対策に大きな貢献ができます。

 ミレニアル世代、そしてそれに続く世代が企業に「パーパス」を求める傾向は、今後ますます強くなっていくでしょう。どの企業も今、激しい人材獲得競争に直面しています。より優秀な人材を獲得するには、よりよい「パーパス」が必要になっているのです。

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